会社を動かすのは誰か。それはあくまでも、現場の社員だろう。では、社員を動かすのは、どんな経営者だろうか。創業者、大株主、カリスマ。そんなものは空疎なレッテルにすぎない。孫正義氏の何が周囲を心酔させるのか。ソフトバンク幹部たちが初めて明かした──。
――シンガタ クリエイティブ・ディレクター 佐々木 宏氏の場合

どう吹っかけてもその上で返してくる

孫正義さんと仕事をご一緒して約10年になります。僕が電通から独立してから1年ほど経ったころ、CIイメージを刷新するために企業名の変更も考えていると相談を受けました。僕は、名前はそのままでいいと思い、ブランドマークとして、孫さんが好きな坂本龍馬の海援隊の2本線の旗印を提案しました。

シンガタ クリエイティブ・ディレクター 佐々木 宏氏

一方で、僕はアップルという会社が異常に好きでした。パソコンには全然興味がなかったのに、「iMac」のCMに惚れて飛びついた経験があります。使ってみて、インターネットのすごさがわかった。日本にもスティーブ・ジョブズのような偉大な発明者・経営者が生まれてほしいと思っていました。

それまで孫さんは、よく「日本のビル・ゲイツ」と呼ばれていました。僕はどちらかというと、孫さんにジョブズになってほしかった。まず最初に「孫さんには、ジョブズとゲイツを足してウォルト・ディズニーで割ったような人物になってほしい」と偉そうに言いました。すると「ジョブズとも、ゲイツとも友人だ。ディズニーの映画は、ほとんど観ている。だからもう、すでにそうなっているぞ!」と返ってきた。相手はさらにとんでもない人だった。笑っちゃいますよね。僕は、日本のリーダーにしたいくらい楽しい人だ。現代の坂本龍馬だ。応援団長をやらせてほしい、と思いました。

最初に手がけた仕事は、アップルのようなカッコイイ広告かなと思いきや、福岡ソフトバンクホークスのユニフォームやグッズです。孫さんは世界一というフレーズが好きで、応援旗にも「めざせ世界一」と書くように言われました。その後、WBCで王貞治監督がチャンピオンになった。孫さんは「やることがクレージーだ」「すごいホラを吹く」と言われましたが、そのうち世の中のほうが、本当にそうなる。近くにいて、何度もそのことを実感しました。