2015年12月25日(金)

他人の期待に応えようと思うあまり疲れ果ててしまいます

為末大の悩み相談室【16】

PRESIDENT Online スペシャル

答える人=為末大 撮影=鈴木愛子
いまやツイッターのフォロワー数33万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル16■他人の期待を気にせず暮らしたい
自分の行動が自分で望んで行っているのか、他人から期待されているから行動しているのかわからなくなることがあります。家族でも友だちでも職場の人でも、他の人が「こうして欲しいのかな」と思うとなるべくそうしてあげようと思ってしまいます。でもそうしているとつらくなることもあります。為末さんはいろいろな場面で期待されてしまうことが多いと思いますが、「自分が今やっていることは、他人のためではなく自分で決めてやっていることだ」と納得するために心がけていることはありますか?(女性・会社員・38歳)

期待に応えられなくても意外に大丈夫です。もしかしたら誰も期待していないのに勝手に期待されていると思いたいだけかもしれません。「私に期待しないで」と言っておいて「あなたには期待していない」と言われるとそれはそれで物足りない。「ただポツンとそこにいる」という状態に耐えられる人ってけっこう少ないものです。

アドバイスとしては、「まずは小さく裏切る」ことを実験的にやってみてはいかがでしょうか。「気がついたら雑用をやらされている」といったシチュエーションになったら、ちょっと抵抗してみるとか、なにか決めなきゃいけないときに「私はこう思う」と踏み込んで発言してみるとか。そうすると、たんに都合がいいから一緒にいた人たちは離れていくでしょうが、そこから始まる新しい関係もあると思います。そういう人間関係のつなぎ直しが起きると言うこと自体に怖さを感じているのかもしれませんが、変化には何らかの代償はつきものです。

かくいう僕も「期待に応えるべきか否か」という問題ではかなり悩んできたほうです。当然ながら、アスリートは注目度が高くなるにつれて背負う期待も高くなりますが、それは自分の成績や振る舞いにがっかりする人が増えるということでもあります。「応援していたのにがっかりしました」というあれですね。僕もそういう反応に若いころは傷つくこともありましたが、ある年齢からは「応援してくれと頼んだわけではない」という反動みたいなものもでてきて、その後は人の期待というものをわりと平常心で受けとめられるようになりました。結局僕は僕でしかいられないわけで、期待というのは相手が勝手に抱いた僕に対するイメージにすぎません。そのイメージに自分が無理をして合わせていく必要はない。僕のことを期待外れだと思うのはその人の見立てと現実のあいだにズレがあったということです。

ただ、「家族の期待」となるとそんなふうにきれいに割り切れないものはあると思います。だから実践的に考えるとしたら、やはり「ちょっとずつ期待を裏切る」ことを重ねながら本来の自分を出していくということになるんじゃないでしょうか。置かれた状況に対して、ずっと同じパターンの反応をするんじゃなくて、ちょっとだけ勇気を出して普段と異なる言動を試してみる。やってみると、案外自分の影響力を過大評価しているということも分かってくるのではないでしょうか。

元サッカー日本代表の有名選手が引退したとき、新聞の一面にドカンと出るのかなと思っていたら、意外に小さい記事でした。アスリートの引退がニュースになること自体すごいことではあるのですが。僕はたまたま都内のホテルに泊まっていて、朝ごはんを食べにコーヒーショップに行ったら、引退の記事を見て「おおー」と反応している人もいれば、全然違う記事を読んでいる人もいて、その隣では前の日の合コンの話をしているOLみたいな人もいて、いつもと変わらない1日が始まっていたんです。そのとき一気にアスリートへの期待なんてそんなものなんだと悟りました。どんなに現役時代に結果を出しても、自分が引退しても大したニュースにもならないし、死んだらすぐに忘れられるんだなと。だったら自分でないものにまでなろうとして人生を浪費するのはやめて、いまを一生懸命やろうと思いました。

一方で、この人の場合、何か頼まれたらできるだけやってあげるっていう自分がそこまで嫌いではないと思うんです。こういう自然に人をおもんばかる人に、誰かが気づいてあげると変わるのかもしれません。ただいずれにしても期待には応える自由も、応えない自由もあるということです。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp
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スポーツ、教育、ビジネスの世界で活躍中の元プロアスリート・陸上メダリストの為末大がこれから10年後の近未来を見据え、「社会が科学や技術の進歩によってどのように変わっていくのか」という問いを、ノーベル賞受賞者から若き起業家まで、10の先駆者たちに投げかけた。

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前向きに「諦める」ことから、自分らしい人生が開けてくる――。何かを諦めながら何かを選び取る。その繰り返しの上に「自分らしさ」が生まれてくる。

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