新しい働き方を実践する「風の人」

「風土」とは、風と土が混じり合ってできるものともいわれる。その土地に根づいたものと、風で外部から運ばれてきたものとが融合することで新しい何かが生まれ、蓄積されていく。たとえば、京都。保守的で閉鎖的な印象が強いが、半面、新しいものを受け入れる懐の深さがある。だからこそ「伝統と革新」と評される独自の風土が生まれ、京セラ、オムロン、ワコール、任天堂といった多くのベンチャー企業を輩出してきたのだろう。

『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』田中輝美、法政大学社会学部メディア社会学科藤代裕之研究室 著 ハーベスト出版

しかし実際、そうした街は例外だ。たいていの地域、地方は閉鎖的である。よそ者がやって来て、新しいことを始めたりするとあつれきが生じる。煙たがられ、嫌われる。地元の人の理解、信頼を得るには、その土地に骨を埋めるくらいの本気さ、覚悟が求められる。

全国でいま、地域再生の取り組みが盛んに行われている。高齢化、過疎化は地方共通の悩みだ。そこで若い人たち(に限らないが)を呼び込もうとあの手この手で誘う。ところが、定住が前提になるとハードルが高い。多くの人は二の足を踏む。

そこで出てくるのが、本書のタイトルにある「風の人」である。地元に暮らす「土の人」に対する言葉で、いわゆるよそ者のこと。風の人は軽やかでいい、と本書は言う。定住するもよし、去るもよし。この本には、日本で人口が2番目に少ない県である島根で活動する8人の風の人が登場する。大手電機メーカーを辞め、離島の廃校寸前だった高校を全国から生徒が集まる学校に再生させた男性。高齢化に悩む市で、若者が帰って来られるまちづくりに取り組むNPO代表の女性。ほかに起業家、医師、劇団主宰者、映像クリエーターなど。島根にやって来た形もUターン、Iターンとさまざまだ。拠点をすでに東京に移している人もいれば、拠点は島根に置きながらも全国を飛び回っている人もいる。