1960年に誕生した「グランドセイコー」はセイコーウオッチにおける最高級ラインで、ちょうど今年で55周年を迎えます。67年に世に出され、後のグランドセイコーのデザインの基盤を築いた「44GS」を現代版にアレンジした復刻モデルを作ろうという話が持ち上がりました。しかしここから発売まで、多くの壁が私の前に立ちはだかりました。

デザインした人 小杉修弘(ウオッチデザイナー)

昔は時計製造に関わる職人の数も多かったので、たくさんの時計を作り、その中から基準を満たした質の高い時計を選び取っていくこともできました。でも今は、できるだけ職人の負担を減らす傾向にある。そのような事情をわかっていながらも、私が復刻版のグランドセイコーを作るときにやろうと決めたのは、「やってはいけないデザイン」でした。つまり、研磨する職人たちにとって難しいことをあえて目指したのです。

特に手間ひまを要した部分はまず、ケースとバンドの接合部分。ここは平面ではなく4つの面からなる多面体になっています。その4面の面積を均等にし、さらにそこを歪みのない鏡面に磨き上げることで、光を受けてキラキラと光る高級感を演出しています。

次に時計の針部分。ここには角のシャープな5面カットの「笹針」を採用しています。そのような造形にするには、職人は1カ所ずつ角度を変えながら針をカッティングしていかなければなりません。でも、そのおかげで時計の角度を変えることで針が光を拾えるようになり、夕暮れ時の時間帯でもきっちり時間が確認できることを可能にしました。