「一度くらい叱られてきなさい」
近ごろは、小さいころ親に叱られたことのない若者が増えていると聞き、こう言い放つのは、『叱られる力』の著者の阿川佐和子氏。父親の阿川弘之氏から、四六時中叱られて育ったという。
「真冬に家族で食事に行った帰り道、思わず『寒い』という言葉が出たら、『うまい飯をごちそうしてやったのに、寒いとはなんだ』。いただいたイチゴを見て『これを生クリームで食べたいな』と言うと、『なんて贅沢をいう子どもだ。どういうつもりだ』。いつなにが理由で怒られるのかわからない。早く家を出たいとずっと思っていました」
といっても、父を恨んでいるわけではない。むしろ親子関係は、そういう理不尽なものであっていいと阿川氏。
「社会人になってテレビの仕事を始めたときも、上司だった秋元秀雄さんからしょっちゅう怒鳴られていました。何度も心が折れそうになりましたが、それでもなんとか乗り越えられたのは、私が怒られることに慣れていたからです」
最近は、ほめて育てることばかりが重要視されているが、叱られないと、どうせみんなが守ってくれるという甘えた大人になってしまうのだとか。
「叱って子どもを自立させるのが親の役目ですから、嫌われて当たり前。その覚悟がない親が増えているのが問題なのです」
ただし、街中で見ず知らずの人を叱るのはまた別だ。
「伊集院静さんは、公共のマナーを守らない人はその場で一喝するそうです。そういう人が減りましたよね。でも、最近はいろいろ物騒なので、伊集院さんほど迫力のない人は、小さい声で聞こえないように文句を言うくらいにしておきましょうか」