立川市に本社を置くメトロールは、まさに進化系中小企業の名にふさわしい。松橋卓司社長の独自の考え方とリーダーシップの下、男も女も、正社員もパートも、老いも若きも、平等に一人ひとりの個性や能力や自発性を活かした会社を作り上げ、グローバルニッチトップ企業として快走中だ。

実力主義と家族主義の「運命共同体」

松橋卓司・メトロール社長。

メトロールには人事課も経理課も総務課もない。間接部門には経理担当者が1人いるだけで、開発・製造・販売の直接部門に権限を大幅に委譲し、現場が独自に判断して動く。2代目社長の松橋卓司(57歳)はこう語る。

「当社には、弾の飛んでいないところで評論家的に仕事をしている社員は誰もいない。みな、自分の強みでどう会社に貢献し、何をするべきか分かって動いています。また、間接業務をお互いがどうシェアするべきか常に話し合いが持たれています」

役職はあるが、肩書きでは基本的に呼ばない。男女や入社年数にかかわらず、意欲と能力があれば責任を持たされ、重要な仕事を任される。定年は65歳だが、働ける人は年契約で雇用を延長でき、最高齢の従業員は81歳だ。

パートタイマーと言えども勤務時間が短い以外は正社員と同じ仕事、同じ待遇である。従業員のうち7割程度を占める女性のパートが生産活動の中心であり、スキルアップもできる。1年ごとの契約だが、本人が辞めることを希望しない限りは続けることができ、平均勤続年数は5年以上だ。社会保険も完備、賞与も正社員よりは低いが年3回、支給される。

後述するようにメトロールの製品は世界でもオンリーワンなので、海外14カ国1200社以上と直接取り引きし、売上高海外比率は60%超、海外子会社を上海と台湾に置き、インドのバンガロールには支店がある。

松橋は「会社は運命共同体」と言い、情報の共有化による実力主義と家族主義を貫いている。社内向けのブログでは日本語が標準で、全世界の社員が連絡事項、注文情報、顧客情報を発信し、リアルタイムに情報を共有している。

松橋は社員同士やトップと社員のコミュニケーションを何より大事にし、そのための制度や仕掛けを施している。まず、平面ワンフロアーのオフィスにはパーテーションを作らない。仕切りがあるのは、トイレと更衣室、応接室だけ。すぐに従業員が顔を合わせられるように、吹き抜けの2階建て工場には5カ所も階段がある。もちろん、社長室などない。

社内はメール禁止。資料の送付以外は、打ち合わせは必ず対面で行う。居酒屋での打合せや交流を推進するため、マネジャーには会社名義のクレジットカードを持たせ、自由に飲食できる。海外出張も上司の決裁など不要。営業は入社1年目からクレジットカードを使って自分で手配する。