商店街の福引やビンゴゲームは大好きな私だが、宝くじは買ったことがない。理由は3つある。

(1)たぶん(特に高額なものは)当たらないと思うから。(2)面倒だから。(3)高額当せんしたらしたで、自分や家族のライフスタイルに大きな変化が生まれるのではないかと漠然と不安だから。

さて本書の主人公、図書館司書の一男は、図らずも当たってしまった。3億円! が手に入ると知った彼が真っ先に取った行動はいかにも今風、ネットで「宝くじ 当せん者」と打ち込んで検索してみたのだ。そして多くの当せん者が人生の歯車を狂わせた悲惨な実情を嫌というほど目にし、思い悩む。これからどうしたらいいのだろう?

実は一男にはこの時点で3000万円の負債があり、それが理由で妻と娘とも別居していた。僥倖と感謝してさっさと借金を返し、家族とよりを戻せばよいとも思うのだが、彼はそうはしなかった。大学時代の友人、九一九(つくも)に相談に行ったのだ。ネットベンチャーで成功を収め、若くして巨万の富を築いた彼ならば、大金と向き合うコツを教えてくれるはず。

ところが、あろうことか一男は3億円を持ち逃げされてしまう。生涯唯一の親友と信じていた男は彼を裏切ったのか。わずかな手がかりを辿りつつ九一九を探す、「お金と幸せの答えを見つける」ための一男の旅が始まった。

九一九とベンチャーを共同経営し、大金を得ていた3人の仲間、十和子、百瀬、千住。三者三様にお金と向き合って暮らしていた。しかし、肝心の九一九の行方はわからない。

そして旅の終わり近くには、妻、万佐子と対面。

「あなたがお金によって奪われた大切なもの。それは“欲”よ」
「言っていることの意味がわからないよ」

万佐子のセリフはわかりにくいが、あえて注釈をつけない。ぜひ、本書を読んで意味を確かめてほしい。

クライマックスはいよいよ九一九との再会だ。彼の意図は一体何だったのか。落語の「芝浜」を知っているかどうかで読後感は多少変わるだろう。

「貨幣とは、奴隷制度の新しい形だ」(トルストイ)。「うまくお金を使うことは、それを稼ぐのと同じくらい難しい」(ビル・ゲイツ)。「諸悪の根源はお金そのものではなく、お金に対する愛である」(サミュエル・スマイルズ)。随所にちりばめられた先人たちの言葉も興味深い。それにしても、みんなお金については一家言あるな……。

ところどころ展開がやや強引な個所もあるのだが、ファンタジーとして楽しめばよいのだろう。恋愛も家族もお金も、政治や経済も、やっぱり小説で語るのが一番かっこいいと思う。