昨年10月の連休を利用して在日中国人の友人たちとともに、石川県能登半島に移住して農業を営む日本人の友人を訪ねた。彼を応援するための旅だった。

しかし、そこで聞いた現地の人たちの現金収入事情に驚きを禁じえなかった。冬が長く自然環境が厳しい能登半島で農家生活を続けるのは、並大抵のことではないのだ。

後ろ髪を引かれる気持ちで現地を去ったが、心のなかではずっと能登半島で農業を始めた友人のことを心配している。そこで書評に取り上げる本を考えていたとき、本書の書名を目にした私は、躊躇せずにこれだと決めた。

愛知県豊田市の中山間村で、農山村を新たな舞台にするプロジェクトが進んでいる。その主体は全国から公募で集まった10名の若者たちだ。著者の教え子たちの会社が彼らを引っ張っている。

この村で暮らしている彼らは会社に使い捨てにされ、社会から排除された、いわゆる「弱者」だ。精神的にはおそらく満身創痍の人たちだろうと容易に想像できる。

こうした人たちはなぜこの農山村に集まってきたのか。決して都市部生活からの逃避行ではなく、むしろ一度は負けてしまった社会生活への再適応と再挑戦である。

著者によれば、彼らがこの村へやってきたのは、「就農するのではなくて、彼らが持つ都市的な文化と地元の文化を融合して、新しい『農的な生活』をつくりだし、それを都市に発信」するというコンセプトに惹かれたからだ。

農山村に根を下ろした彼らの年収は約200万円だそうだ。しかし、都会でフリーターや非正規雇用で働いていた頃よりもよい生活をしている。豊田市や名古屋市にジャズを聴きに行ったり、地元で飲み会もあったりと楽しそうだ。

豊田市「農的生活」プロジェクトの成功の裏には、社会からの支援という要素も見逃せない。名古屋大学環境学系の研究者や院生たちがかかわって、小水力発電や太陽光発電、間伐材を利用して固形燃料の木質ペレットを原料にしたボイラー発電などを組み合わせて発電し、エネルギーの地産地消を実現できた。

経済格差が拡大している中国でも農山村の再振興が大きな課題となっている。数年前から、私は中日間の過疎化地域同士の町起こしの交流はできないものかと考えている。

豊田市「農的生活」プロジェクトと島根県隠岐郡海士町の「高校魅力化プロジェクト」に私の目が強く惹かれた理由もそこにある。まず、在日中国人社会から関係者を募って早速この種の交流をスタートしてみることを計画したい。日中交流はハードからソフトへ替わる時代を迎えた。過疎化と人口減に苦しむ農山漁村の振興をテーマにした交流は時代の流れに沿ったものかもしれない。