エッセイスト、画家 玉村豊男さん

東京大学仏文科卒業。在学中にパリ大学言語学研究所に留学。2004年、長野県東御(とうみ)市にヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーを立ち上げる。14年、「日本ワイン農業研究所」を設立。官民ファンド農林漁業成長産業化支援機構などから出資を受け、ワイン人材を育てる千曲川ARCワイナリーを設立すべく準備中。事業費は2億8000万円。信州ワインバレー構想推進協議会会長も務める。『千曲川ワインバレー──新しい農業への視点』『里山ビジネス』など著書多数。


 

38歳のときに長野県に移り住んで30年になります。最初は、隠遁生活を送ろうと思っていました。あまりに忙しくて血を吐いて倒れたので、ゆっくり暮らそうと思ったのです。そのときに自分用のワインを造ろうと思って二反歩(20アール)にブドウを植えた。1992年です。

95年から7年間、宝酒造のTaKaRa酒生活文化研究所の所長を務めましたが、そこでもワインを造ろうという話が持ち上がった。ウチの近くにワイナリーや畑の候補地も決まりました。ところが地権者と交渉中に状況が変わり話は頓挫。でも、ぼくもこれにむけて畑を拡大していたので、宝酒造から派遣されていた小西超(とおる)とそのまま自分たちでワイナリーを造ろうということになりました。

こうしてヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー設立から11年が過ぎ、ワインも国産ワインコンクールで金賞を取るようになりました。するとこの地はどうやらワイン造りに良さそうだ、と人がやってくる。その頃書いた『里山ビジネス』という本を読んで来た人もいましたね。2008年に東御市がワイン特区を取り、11年に東日本大震災が起きた。これらを機に、ワインを造りたい人が益々集まるようになりました。けれど行政側の受け入れがまだ不十分で、ぼくに相談がくる。ぼくとしても本を書いた責任を感じていたので、ワインビジネスに参入するバリアをできるだけ低くする手伝いをしたいと思っています。

いま、ワイナリー設立を希望する人たちをサポートするために、もうひとつワイナリーをつくっています。来年3月完成です。ブドウを委託で受けてワインを造り、醸造を教え、3年で自立を目指す。そうしたワインやワインビジネスに関する知見が集積された千曲川ワインアカデミーをつくるんです。

医者や証券マンなど、さまざまな人が自分のワイナリーをつくろうとブドウを育てることを始めていますし、実際いくつかワイナリーはできあがっています。ワイナリーが増えれば、レストランやペンションをやりたい人も集まってくる。草如庵もソリレスもその例。県外から長野の食材に魅力を感じて仕事場を構える。そんなふうに人が集まってくるのが理想です。

読者には、これがビジネスとして成り立つことに気づき是非投資してほしい(笑)。ワインを媒介としたビジネスは裾野が広い。5年、10年で確実に変わります。おもしろいです。