3.11、東京ディズニーリゾートで何が起きたか

2011年3月11日。この日、未曾有の自然災害が東日本を襲い、大勢の人の命が失われました。首都圏は交通機関が止まり、多くの帰宅困難者が発生。東京ディズニーリゾートでも、自宅に帰れなくなった人が多数発生しました。その日の来園者は、ランドとシーを合わせて約7万人。そのうち約2万人が園内で一夜を明かすことになりました。

ディズニーの対応は、迅速かつ柔軟でした。まず来園者を指定の避難所に誘導しました。ディズニーは5万人が3日間避難していても困らない非常食を備蓄しているため、避難中のゲストにさっそく提供しました。

避難所では、キャスト(ディズニーでは従業員のことをこう呼びます)がそれぞれの判断でゲストのケアをしました。あるキャストは、売り物のダッフィーのぬいぐるみをゲストに配りました。寒さを和らげると同時に、防災頭巾の代わりにしてもらうためです。

別のキャストは、寒さしのぎのための段ボールを配りました。段ボールは夢の国に似つかわしくないため、普段はゲストに見せてはいけないことになっています。しかし、非常時にそんなことは言っていられません。京葉線が動き始めたのは、翌日の3月12日。パークで一夜を過ごしたゲストたちは、心身ともに疲れた様子で帰っていきました。

約1カ月後の4月15日、パークは営業を再開しました。会社をこっそり休んで開園の列に並ぶと、テレビの報道クルーが来ていて、大勢の人が並んでいる様子を取材していました。テレビのインタビューを受けた人の中に、3.11の夜をパークで過ごしたゲストがいました。

「たいへんな目にあった場所に、なぜまた戻ってこようと思ったのですか」

記者にそう問われたゲストは、次のように答えていました。

「どうしても、ありがとうって伝えたくて」

サービス提供者にとって、これほどうれしい言葉はないでしょう。震災の日、パークにいたキャストたちも被災者です。一刻も早く家に帰りたい、家族の顔を見たいと思っていたはずですが、それでもキャストたちは顧客の安全と安心のためにベストを尽くした。その苦労も、「ありがとう」の一言を聞くことで報われたはずです。