現場のチャンスを確実に掴めるか

『実践版 孫子の兵法』鈴木博毅著(プレジデント社)

孫子は、君主が優れた将軍の仕事を邪魔する口出しを戒めました。同時に、将軍に「君命でも従うべきでない時がある」と語りました。2つのことが教えるのは、孫子が将軍になにを期待しているかです。戦場の現実から、一番よい判断をして欲しいのです。

「必ず勝てるという見通しがつけば、君主が反対しても、断固戦うべきである。逆に、勝てないと見通しがつけば、君主が戦えと指示してきても、絶対に戦うべきでない」(引用『孫子・呉子』守屋洋 プレジデント社より)

この言葉は命令違反を推奨しているのではなく、命令を鵜呑みにせず、全軍の勝利への機会を見つけ、それを掴みとることが本来の役割だということです。

現場を統括する優れた人物に、実力を発揮させない環境は愚かです。そのため、マネージャーに「上司の命令」がすべてではなく、成果がすべてと考えさせることが重要です。

孫子が求めたのは、上司に対するイエスマンではありません。現場のチャンスを猟犬のように追いかけ、確実に掴んで勝つ将軍なのです。

孫子は機会主義を、マネージャー職の将軍たちにも当てはめたと考えられます。君主一人が機会を探し、単一計画を組むのでは非効率です。現場に近い指揮系統にこそ、見えない機会が転がっているものだからです。

孫子は、常に将帥(マネージャー職)に自律性を求めています。

「千変万化」「臨機応変」「戦場での自己判断」「兵士から全力を引き出す」。戦う際の原理原則を徹底的に伝えたら、あとは自由に才能を発揮させるようにしたのです。

これはマニュアルの「定石による失点を避ける」意図とは異なります。戦闘での基本、将帥に期待されていることをまず原則として伝える。原則が必要なのは、自由にできることを逆に明確にするためです。原則に適するなら、制限なく自由闊達に、自ら成果を最大化せよと命じたのです。