「不敗」、まず失敗しない体制を作り上げる
兵法書、すなわち戦争に勝つ為の書籍だと考えると勇ましい言葉が沢山出てくる本だとイメージする人もいるかもしれません。ところが最強の戦略書といわれる『孫子』には、勇ましい言葉はほとんど出てきません。むしろ落ち着いた言葉で流れるような解説をしている雰囲気さえあります。
『孫子』の中心的な思想の一つは「不敗」すなわち負けないことを第一としているからです。国家の存亡をかけた古代の戦争では、敗北は国の滅亡を意味し、将軍や兵士の死を意味したからです。手に入るものではなく、まず失うものの大きさをイメージすることを優先した思想だということもできます。
そのため、勝負を一か八かの賭けのようなものとは考えず、戦う前に相手を圧倒できるだけの大差をつけておくことを狙う発想を持っています。
「あらかじめ勝利する態勢をととのえてから戦う者が勝利を収め、戦いをはじめてからあわてて勝利をつかもうとする者は敗北に追いやられる」
「不敗の態勢をつくれるかどうかは自軍の態勢いかんによるが、勝機を見出せるかどうかは敵の態勢いかんにかかっている」(引用『孫子・呉子』守屋洋・守屋淳 プレジデント社より)
勝負を「リスクのある賭け」にせず、「周到な計算」にする思想が孫子の言葉から感じられると思いますが、人生において何度か勝負をしなければならない私たちが、そのたびにリスクある賭けをするのならば、手痛い失敗を幾度も体験することになってしまいます。
そのような事態を避けるため、戦う前に既に勝っている状態を創るべきだと孫子は教えています。それはちょうど、会議が始まるまえに既に根回しを終えている姿、イベントの開催日前にチケットがすべて売れているような理想的な勝ちを実現する考え方なのです。