勝者は健全な緊張を好み、敗者は怠惰で自由を好む

一番重要な勝負に集中できるよう、進軍する戦場を慎重に選ぶこと。実際に戦う前に、極限まで勝率を高めておくこと。勝率を高める5つの条件を整える姿勢から見えることは、勝つことに対する静かで密度の高い"執念"です。

一国の存亡を委ねられた将軍は、軽はずみなことで戦いを始めることはできず、正しい戦闘を選び、確実に勝つことが求められます。敗北は祖国の消滅を意味したからです。孫子の描く勝者とは、努力の汗も見せず圧勝する者です。勝負に関する準備、見通し、執念のすべてで敗者を凌駕しているからです。

孫子が描く勝者と敗者の対比から、逆に敗者の典型的な姿も浮かび上がります。私たちは戦略の天才が指摘した「敗者の共通項」をできるかぎり避ける必要があるのです。

【敗者の2つの共通項目】
○勝負を軽く見る、事前準備が必要ないと思うほどに
○非現実的なほど自分を過大評価し、自分の欠点を重要視しない

さらに言えば、敗者はストレスが溜まらない環境にいて、勝者は常にストレスにさらされています。理由は勝者が常に新しい挑戦に手を伸ばしている一方、敗者は欲しいものをすぐに諦めて手を伸ばす行動を厭う習慣を持つからです。挑戦へのストレスの中にいることで、勝者は健全な緊張感を好み、敗者は怠惰で成果のない自由を好むのです。

劇的な社会変化、マーケットの変化に直面している日本企業とビジネスパーソンですが、正しい勝負を選び、次の成果に向けて手を伸ばしている勝者は大勢います。一方で過去も含めた自らを過大評価し、静かな衰退というぬるま湯の中で次第に行動力を失う敗者も存在します。問題は私たちがどちらの側に属しており、本当に勝利を手にする気概をもっているかどうかです。勝ちたいと願う人たちが、その情熱をやみくもな行動で潰さずに、階段を一歩ずつ登るように確実な勝利に変換していく。

2500年間、勝者を支える最高峰の戦略書であり続ける『孫子』。孫武という稀代の天才が残した書は、古代中国の時代から不変の勝者と敗者の違いを鋭く浮かび上がらせているのです。

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