2014年8月11日(月)

なぜ謝罪や苦情の窓口を外注してはいけないか

サイバーリテラシー・プリンシプル(5)謝罪や苦情の窓口を外注しない

PRESIDENT Online スペシャル

著者
矢野 直明 やの・なおあき
サイバーリテラシー研究所代表

朝日新聞社で1988年にパソコン使いこなしガイド誌『ASAHIパソコン』、95年にインターネット情報誌『DOORS』を創刊、初代編集長をつとめる。2002年にサイバーリテラシー研究所を開設し、「サイバーリテラシー」という考えのもとに、現代IT社会における人間の生き方を模索してきた。この間、慶応義塾大学、明治大学、情報セキュリティ大学院大学、サイバー大学などで教壇に立つ。主著:『マス・メディアの時代はどのように終わるか』(洋泉社)、『インターネット術語集』(岩波新書)、『インターネット術語集II』(同)、『サイバーリテラシー概論』(知泉書館)、『総メディア社会とジャーナリズム』(同、2009年度大川出版賞受賞)、『情報文化論ノート』(同)、『IT社会事件簿』(ディスカヴァー21)。

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サイバーリテラシー研究所(代表 矢野直明)=文
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なぜベネッセは謝罪窓口を外注したのか

ベネッセホールディングス(本社・岡山市)から子ども、およびその保護者の情報が大量に流出した事件の報道で気になったのが、事件発覚後の顧客に対する“謝罪”窓口を外注していたことである。

朝日新聞(2014.7.22)によると、ベネッセの元派遣社員は事件発覚後、7月14日から月末まで専用フリーダイヤルで顧客の苦情に応対する時給1100円の仕事を得た。ベネッセが情報流出を公表した9日に派遣契約を打ち切られた人が対象だという。担当者は「本来は社員が対応すべきだがとても受けきれない」と述べていたが、16日までに約5万件の問い合わせがあったと言われ、電話攻勢に対応する応急措置としてはやむを得ない面もなくはない。

問題は企業の顧客からの問い合わせ対応窓口の多くが、日常的に外注化されていることである。カスタマーサービスセンターを海外にアウトソーシングしている企業も多い。

アメリカの外交・国際専門ジャーナリスト、トーマス・フリードマンは2005年に『フラット化する世界』(上・下、日本経済新聞社)で、インドを訪れた際の体験を、驚きをもって紹介している。

インド版シリコンバレーと呼ばれる南西部のバンガロールにはアメリカ企業のコールセンターがたくさんあり、航空会社やコンピュータ会社の業務委託(アウトソーシング)を受けて、乗客の荷物紛失や機器の取り扱いの問い合わせに答えていた。インド人はたいてい流暢な英語を話すが、マイクロソフトの場合はシアトルなまりで話すなど、米国なまりの特訓も受けているとか。デルタ航空に乗って途中で荷物をなくしたテキサスの乗客からの問い合わせをインドのコールセンターの女性が受ける。客は地球の裏側から応答を受けているとは気づかず、ある女性オペレーターは「お客さまに結婚を申し込まれた」と話した。

フリードマンはそのとき、「世界はフラットだ(The World is Flat)」と実感したという。同じころの私の経験でも、デル・コンピュータのカスタマーセンターは大連にあったし、アップルのiPod(アイポッド)に対する質問にはオーストラリアのべリスベンに住む日本女性が答えてくれた。

それからすでに10年近く、クラウドなどのコンピュータネットワークの発達で、世界のフラット化はもはや常識である。むしろそういったアウトソーシングを効率よく進めるのがグローバル化で生き残る道だと考えられている。そういう時代だからこそ、情報を持ち出したシステムエンジニアがベネッセのグループ企業のそのまた下請けへの派遣社員であっても、顧客対応窓口が外注されていても、もはやだれも驚かない現実がある。

そこであらためて考えてみる。

このようなグローバル化で失われたものは何なのだろうか。

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