松永駅長は、5日間、乗客と部下のため駅に立ち続けた。勤続38年目。未経験の大雪にも、たじろがない。「鉄道人」の仕事ぶりが、周囲の心を打った──。

>>前代未聞の雪害――JR大月駅の120時間【1】 http://president.jp/articles/-/12115

 無人駅の168人を「電気機関車」で救出

鉄道の運行において、豪雪により危ぶまれるのが「ポイント不転換」だ。列車の進路を変えるポイントの可動部分に凍結や雪詰まりが起きると切り替えができなくなる。ポイント不転換が発生すると運行は困難だ。熱で雪を溶かす装置も設置されているが、今回のような積雪では人力で除雪するしかない。

ポイント不転換が起こるたび、駅員たちがシャベルなどを手に外に出た。しかし線路はホームの高さを超えるほどの雪に覆われている。ポイント周辺に見当をつけ、泳ぐように雪をかき分け進む。シャベルで雪を掘り、ポイントに付着する氷をバールで砕き、バーナーで溶かす。そして畑井が信号所でポイントが正常に作動するかチェックする。不転換が起きるたびに、同じ作業を繰り返した。

「私自身も都内にいる妻と子が心配でした」と畑井は語る。「しかし同じように不安を抱えるお客さまを一刻も早く目地へ、という気持ちで5日間の作業を続けました。小さなお子さんもいらっしゃったので、できるだけ負担が少ないように、と。責任を感じていましたね」。

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大月駅の位置関係

問い合わせが多く深夜も窓口を閉めるわけにはいかない。除雪作業にも追われる。駅員たちは横になる暇もなく翌15日の朝を迎えた。隣接する富士急行線大月駅では約100人が列車内で一夜を明かした。だが架線切断が発生し、車内の暖房が効かなくなってしまった。9時。富士急の乗客はJR大月駅に移った。

さらに隣の初狩駅では168人が列車内に取り残されていた。松永たちは乗客の救出を考えた。運転士と車掌だけの初狩駅では乗客の十分なサポートはできない。大月駅まで、どうやって連れてくるか……。切り札があった。前日の夕方、「EF」という電気機関車を甲府駅から運んでいた。パワーのあるEFなら雪をかき分けられるのではないか。東京の指令室に異例の許可をとり、乗客の救出のため、初狩駅に向けてEFを動かした。だが、5メートルほどで止まってしまう。このままでは進めない。車輪に雪が入り込まないよう、手作業で除雪する必要があった。

「これが原点なんだと実感した」と松永はいう。「人間の力がなければ、パワーがある機関車も動かない。だからこそ、みんなで力を合わせなければ、と」。