だが、年金に関する問題はこれだけではない。働けるまで働いてようやく手にすることができるようになった年金の価値を目減りさせてしまう恐れのある「マクロ経済スライド」が15年4月から発動されるのだ。これはインフレ率から「スライド調整率」を引いた改定率を毎年適用して、年金の給付額を決めていくもの。スライド調整率は年金財政を支える現役世代の減少率や平均余命の伸び率から算定され、当面は0.9%が適用される見込みだ。
「アベノミクスで目標としている年2%の物価上昇率があったとしても、年金の給付額は1.1%しかアップしませんよということです。見た目の給付額は確かにアップしているように見えます。でも、その給付額で前年と同じモノを買おうとしても、価値が下がっているので無理。もともと年金は、物価や賃金の上昇率に応じて給付額をアップしていく『物価スライド』になっていました。それを04年の年金改正で放棄してしまったのです。同じようなシステムを持っているのは日本以外にスウェーデンしかありませんが、彼らはいまだ適用していません」
ブレインコンサルティングオフィス社長で年金問題に詳しい社会保険労務士の北村庄吾さんは憤りを隠さない。これから毎年2%と1%の物価上昇があった場合に、本来もらえるはずの年金額と、マクロ経済スライドによって目減りしてしまう金額を北村さんが比較した一覧表が図3。40歳の場合、2%の物価上昇率が続くと、その乖離は61万6400円にもなるのだ。