2014年2月28日(金)

携帯のテレビ電話はなぜ普及しないのか

茂木 健一郎:世界一の発想法

PRESIDENT 2014年1月13日号

著者
茂木 健一郎 もぎ・けんいちろう
脳科学者

茂木 健一郎1962年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学博士専攻博士課程修了。理学博士。第4回小林秀雄賞を受賞した『脳と仮想』(新潮社)のほか、著書多数。

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茂木 健一郎 写真=PIXTA
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国家も、きちんと機能するためには、さまざまな「秘密」を守らなければならないらしい。ひとりの人間も同じである。ネットワーク時代だとはいえ、すべての情報がダダ漏れしてよいわけではない。

すべての情報機器がつながり、情報がやりとりされる時代だからこそ、人々のプライバシーをどう設計するかに、細心の注意を払う必要がある。そのような知恵がないと、せっかくのイノベーションも社会に広がらない。

子供の頃、テレビ電話は未来の夢として描かれていた。ところが、携帯のテレビ電話が技術的に可能になっても、なかなか普及しない。

祖父母にとっては、離れて暮らす孫の顔を見ながら話ができるのはうれしいものだが……。(写真=PIXTA)

その理由を、数年前、おじさんたちの集団と飲んでいて悟った。おじさんの一人に、奥さんから携帯のテレビ電話がかかってきた。「どこにいるの?」とでも聞かれたのだろう。「みんなで飲んでいるんだよ」と言って、おじさんは、その場にいる人たちをさっと、携帯のテレビ電話で写した。

その様子を見ていて、おじさんたちの何人かはどきっとしたらしい。電話が終わった後、一人が「今だからいいけれども、テレビ電話がかかってきて困るときもあるよな」とつぶやいた。何人かが笑ったが、なぜか力がなかった。

このエピソードから、携帯のテレビ電話が普及しない理由がわかる。つまり、動画で、どのような場所にいるのか相手にわかるとマズイ場合があるということである。

しかも一度テレビ電話に出てしまうと、次にかかってきたときに、もしテレビ電話モードを拒否すると、「なぜ拒否したの」と追及されることになる。それならば、最初からテレビ電話は使わないほうがいい。だから、普及しない。

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