●私には「幸運」のようなものは降ってこない、くじ引きすら当らない。

――『ど真剣に生きる』NHK出版

稲盛は「幼いころから今日までずっと、自分は運に恵まれない人間であると、妙な自信を持っている」と語る。

(AFLO=写真)

確かに、若き日の稲盛は挫折に次ぐ挫折の日々を送っている。中学受験に2度失敗、仕方なく行った国民学校高等部では結核を患う。九死に一生は得たものの、大阪大学医学部の受験にも落ち、鹿児島大学工学部に入った。だが、就職でも希望した企業にはすべて断られ、恩師の紹介でやっと入社した会社は赤字が続き、給料遅配やボーナスなしが当たり前。一緒に入社した大卒者4人は直ぐに辞めた。稲盛も自衛隊入隊の試験を受け、合格したものの、戸籍謄本が間に合わず、ボロ会社に取り残される。稲盛は開き直るように、セラミックの研究に没頭し、成果を挙げていく。

●アンフェアなエゴを叩く。自分自身がフェアでありたいというふうに思って叩くんです。

――『プレジデント』1996年8月号

大学卒業を控え、稲盛は石油会社の就職試験に臨んだ。面接を待っている部屋で、ある学生が「うちの叔父が面接におったんで楽でしたわ」と言うのが聞こえた。稲盛は何のコネもなく落ちた。「創業者の子供が生まれながらにして後を継ぐことができるのは、アンフェアの最たるもの」と話した。自分自身もエゴが出てくるときは、叩いて消す。それが「ビジネスをしている私の修業」と述べている。

●「製品の泣き声」を聞く。

――『働き方』三笠書房

製品の不良や機械の不具合が起きると、必ず「製品の泣き声」が聞こえるという。それは、医者が聴診器で患者を調べるのに似ている。「製品の泣き声」に耳をすませると、悪い個所が自然にわかってくる。稲盛は「製品の泣き声が聞えてきたら、この子はいったいどこが痛くて泣いているのだろう。このケガはどこでしたのだろう」と考えた。