世界人口の約2割を占め、出生率も経済の伸びも著しいイスラム圏。東南アジアから、中東、アフリカまで広がる海外の巨大市場に加え、急増する観光客をターゲットに国内市場も動き出した。そんなイスラムビジネスの最前線をレポートする。

マークにある天使の羽をデザイン変更

09年にマレーシアに進出したキユーピーはマレーシアの認証機関から「マヨネーズのパッケージに使用しているキユーピー人形が(イスラム教で偶像崇拝を禁じられている)『天使』と誤認される可能性がある」との指摘を受けた。

従来のマーク(左)の羽がイスラム教における天使のように見えると指摘を受け、羽のないものに変更(右)。

同社は急きょ対応策を講じた。

「今後、イスラム圏での展開拡大を勘案したうえで同様の可能性を指摘されないよう、新たなキユーピー人形を使ったロゴの採用を決定しました」と執行役員海外本部長、尾崎雅人氏は語る。羽のないイスラム圏向けのキユーピーの誕生である。

同社は近年、マレーシアを中心としてイスラム圏での事業拡大を狙ってきた。食の近代化(洋風化)が進んでおり、国を挙げて「ハラル・ハブ政策」を進めていることなどが理由だ。主力商品であるマヨネーズは油、卵黄、酢でできているため、原料については禁忌なものはないが、工場や物流面でハラル基準に沿わせなければならず、苦心したという。

「マレーシアではまだ家庭用マヨネーズの普及が進んでいません。ブランドの認知度向上も含めて、まだまだこれから、という段階なのです。日本と同じ味のタイプはもちろん、砂糖を加えた甘い味も人気ですね。スパイシーな味、チーズ味などマレーシア人の好みに合わせた独自の商品も販売していますよ」(同執行役員)。今後は設立したばかりのインドネシア法人でも製造販売を進めていく予定だ。

多くの日本企業が動き出しているとはいえ、海外で新たにハラル・ビジネスを展開することは容易なことではない。ハラルの証明書を発行している日本ムスリム協会と連携して、企業から依頼された製品の「ハラル性」の調査研究を行っている拓殖大学イスラーム研究所所長であり、自らもムスリムである森伸生教授は、イスラム市場に参入することについて、こう警鐘を鳴らす。

「まったく環境の異なる地域に向けてのビジネスをするのですから、困難なことが待ち受けていると覚悟するべきです。非常にハードルが高いことを理解してほしいと思います」