2013年8月14日(水)

姜尚中「一生、折れない心の作り方」

PRESIDENT 2012年1月2日号

著者
姜 尚中 かん・さんじゅん
東京大学名誉教授

姜 尚中1950年、熊本市生まれ。熊本県立済々黌高等学校卒。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。国際基督教大学准教授を経て、現在は、東京大学大学院情報学環教授。専攻は政治学と政治思想史。悩みを手放さず、真の強さをつかむ生き方を提唱した『悩む力』(集英社新書)は、80万部を突破。『在日』『愛国の作法』など著書多数。

東京大学大学院情報学環教授 姜尚中 構成=山田清機 撮影=尾関裕士
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日本人に不足する、投影=プロジェクトという営み

東京大学大学院情報学環教授 
姜尚中氏

<われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか>

ゴッホと並び称される19世紀末の天才画家、ポール・ゴーギャンの畢生の作品のタイトルが、現代に生きる日本人の心理にぴたりと重なることに、私は驚きを禁じえません。

2011年8月、私は、東日本大震災がもたらした悲劇に、まだ日本中が打ちひしがれているさなか、『あなたは誰? 私はここにいる』(集英社新書)というタイトルの絵画評論を上梓しました。いま、日本人は非常に苦しい状況に置かれています。世界経済はあたかも株価のように乱高下を繰り返し、しかもそれは1年、2年周期の景気循環による変動ではなく、どうやら世界の構造的な変化に根ざすものであるらしい。

国内に目を向ければ、長期的なデフレから脱却する道筋はまったく見えず、退職金、年金といったサラリーマンのライフスタイルを規定してきた制度が明らかな綻びを見せている。まさに、「われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか」が、まるで見えない状況にあるのです。

このきわめて不安定な、不安感に満ちた時代に、あえて「あなたは誰」なのかを問い、「私はここにいる」という確乎としたメッセージを届けたい。それが、このタイトルに込めた私の願いでした。

私が、絵画との鮮烈な出会いを体験したのは、20代の終わりのことでした。当時の私は、大学院は出たものの国籍問題で就職先が見つからず、日本から逃れるようにドイツへ留学していました。鬱々とした不安な日々を送っていた私は、ふらりと入ったアルテ・ピナコテーク(ドイツの国立美術館)の1室で、1枚の自画像と運命的な出会いをしたのです。

それは、500年前に生きた画家、アルブレヒト・デューラーの描いた「自画像」でした。自画像のデューラーは私に向かって、

「あなたは誰?」

と問いかけ、

「私はここにいる」と語りかけてきました。

この絵は500年の間、私の来訪を待っていたのだ。そう確信できるほどの、眩暈を覚えるような邂逅でした。

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