なぜ、名経営者たちは聴衆を引きつけ、人を動かせるのか。音声、しぐさ、パフォーマンスの権威が映像を徹底分析したところ、本人も気づかないような意外な事実が見えてきた。

日本を代表するカリスマ経営者のひとりでありながら、メディアでの露出が少ないファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。ネット上でも新製品発表のスピーチや、旗艦店のオープンで取材される姿がわずかに見られる程度だ。

式典のテープカットでは笑顔を見せるものの、インタビューのマイクを向けられると感情をほとんど表に出さない。

「しぐさも控えめで、慎重な方だとわかります。フォーマルな場で派手に振る舞うのは、経営者である自分の本分ではないと心得ている。ミッションやビジョンが明確な方ですから、周囲にどう思われるかといったところからは超越しているのでしょう」(デジタルハリウッド大学教授・匠英一氏)

派手な自己表現はなくても、柳井さんの話には説得力がある。言葉の意味が理解しやすく、つい聞き入ってしまうのは、低音の魅力的な声のおかげだ。

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「いい声」の正体は低周波にあった!

「発声がよくできた非常にいいお声です。カラオケを歌えば上手なはずですよ。人間の耳が聞きやすい周波数にぴたりと合っているので、大きな声を出さなくてもよく通ります。また、日本人が『いい声』と感じる2000Hz以下の低音がよく出ています。話速は1分間に438字と速めですが、強弱がよいので頭に入ります」(日本音響研究所所長・鈴木松美氏)

もう1つ重要な点は、山口県宇部市出身の柳井さんには少し訛りがあること。

「訛りは聞く人に親しみと安心感を与えます。何ら根拠はないのですが、方言をしゃべる人が他人を騙すはずがない、という安心感。孫さんもそうですし、好例はジャパネットたかたの高田明社長です。逆に地方の出身ではない人が、ウソの訛りを演出すると信用を落とします」(鈴木氏)

もちろん、柳井さんの話に説得力があるのは、それだけが理由ではない。

「価値観が強固で、顧客のことを真剣に考えている。曖昧なところはなく、ブレません。秘めたるパッションが強烈なことは、ロジカルな話し方に表れています」(匠氏)