「ツバキ」「ウーノ」を1600億円で売却

2つ目は、「ツバキ(TSUBAKI)」「ウーノ(uno)」「専科」「シーブリーズ(SEA BREEZE)」といった著名ブランドの売却です。

若年層獲得の優先順位を下げた資生堂は、中~高価格帯の主力ブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」を中心とした販売戦略に舵を切り、それに伴って2021年7月に、「ツバキ」や「ウーノ」といった著名ブランドを含むパーソナルケア事業(日用品事業)を、投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに売却しました。

売却額は1600億円。時はちょうどコロナ真っ盛りの業績低迷時期であり、手元資金確保と日用品事業の商品開発費用および広告宣伝費用の削減を目的とした戦略でした。感染症ダメージという不可抗力的アクシデントへの対抗策なので、背に腹は代えられない選択であったといえます。

しかし、当時グループ売上の約1割を占め、確実に利益を稼いでくれていた事業の売却は、コロナ後の営業利益の落ち込みを考えると痛手であったといわざるを得ないでしょう。

コロナ後も「インバウンド需要」は戻っていない

当時この事業売却理由については、「粗利率が低い事業の切り離しではないか」という見方がありました。確かに資生堂の中~高価格帯は粗利率の高い事業です。ただし、美容部員の人件費や百貨店をはじめとした施設維持コストなど重い固定費負担もあります。

※編集部註:初出時、本文内で魚谷雅彦会長CEOの発言を引用していましたが、事実関係に誤りがありました。取り消して、訂正します。(5月10日18時20分追記)

記者会見で質問に答える資生堂の魚谷雅彦社長兼最高経営責任者(CEO)※肩書は当時(2022年11月10日、東京都港区)
写真=時事通信フォト
記者会見で質問に答える資生堂の魚谷雅彦社長兼最高経営責任者(CEO)※肩書は当時(2022年11月10日、東京都港区)

一方、パーソナルケア事業(日用品事業)は、粗利率こそ低いもののコロナ禍においても着実に売上・利益を稼いでくれる底堅い事業であったのです。後出しジャンケン的物言いにはなりますが、資生堂にとってこのカテゴリーは残しておくべきだったのではないかと思います。

投資を集中させた中~高価格帯では、国際的に名の通った強力な欧米ブランド勢が強く、対日本人向け市場で資生堂が爆発的にシェアを伸ばすのは至難の業です。コロナ以前に同社のこの分野の成長を主に支えてきたのは、特にそのブランド力が通用する中国からのインバウンドに対する販売でした。

3つ目は、コロナ明けの需要の読み間違いです。コロナ禍を経た中国国民の消費行動の変化、中国国内での安売り競争参戦によって、資生堂のブランド力は一時的に低下しています。結果として訪日客は戻ってきたものの資生堂に対するインバウンド需要は思ったように戻っていない状況にあり、厳しい戦いを強いられています。