「子育ての息苦しさ」は、どうすれば解消できるのか。『だから声かけ、話し合う』(TOYOKAN BOOKS)を書いたソウ・エクスペリエンス社長の西村琢さんは「『子育て』という言葉に疑問を持ったほうがいい気がする」という。3児の父である西村さんがそう考える理由を聞いた――。(聞き手・構成=ライター・市岡ひかり)
西村琢さんと長男
画像提供=西村琢さん

子育ての息苦しさを感じた2つの出来事

――著作『だから声かけ、話し合う』は、「肩に力が入りすぎて酸欠状態の親」に向けて書かれたそうですね。西村さん自身は、どんな時に子育ての息苦しさを感じますか。

【西村さん】僕が子育ての息苦しさを感じたのは、長男の中学受験対策が本格化する小6の時期ですね。僕自身も中学受験の経験者ですが、それほどつらかった記憶はありません。

だからこそ、自分が親として進めようとしたときとのギャップが想像以上に大きかった。当時より数年前倒しでスケジュールが進みますし「ここまでの学習をいつまでに終える」といったパッケージ感がいよいよ高まっているなと感じました。

それは競争に参加する以上、致し方ないことだと思います。ただ中学受験では、ずばぬけたトップレベルの人たちとも競争することになる。長男がやり切れるのか、という不安もありました。

僕自身は志望していた慶應義塾中等部に合格しましたし、中学受験の良さを理解していますが、長男の多感な時期を犠牲にすることへの葛藤もありました。

また、次男の誕生日が3月31日で、いわゆる早生まれです。それで人から「勉強やスポーツで不利だね」と何度か言われたことがありました。

子どもがいつ生まれるかなんて、コントロールできないもののはずが、それさえも比較の対象となっていいのか……。この出来事も息苦しさを感じた一例ですね。

中学受験は途中でやめた

――競争意識はかつてより高まっているのかもしれません。

【西村さん】そうですね。ただ、中学受験に関しては、僕は良いものだと思っています。小5~6年でいろんな考え方をインストールできたら、世の中を見る目が変わるじゃないですか。思考力や計画を立てる力が鍛えられるし、勝つことも覚えるかもしれない。

興味対象の多さは人生の豊かさに直結すると思いますし、文章を読み解けることや算数で補助線を引けることは、思考力を鍛えることにもつながります。

それはそれで良いのですが、別の道もあるのではないか、と。長男の場合は、6年生の夏休み前まで受験の準備を進めていましたが、自分自身でN中(角川ドワンゴ学園が運営するフリースクール)という選択肢を見つけてくれました。