これに対して、西側諸国はウクライナを軍事的に支援し、ロシアに対しては経済制裁を行った。経済制裁の結果、ロシア国民の生活が苦しくなれば、プーチン大統領の失脚もありえた。

しかし、実際はどうだったか。アメリカ企業の「スターバックス」がロシアから撤退したが、その店舗はほぼ同じロゴデザインで「スターズ・コーヒー」と名前を変え、普通にコーヒーを売っている。また、トヨタや日産、ルノーなど外資の自動車メーカーが相次いで工場を撤退させたが、自動車はかわりに中国が売ってくれる。

いまのロシアは、経済全体も悪くない。輸出の柱だった原油と食料は、インドを筆頭にグローバルサウスが継続して買ってくれる。また、中央銀行が優秀で、侵攻直後に暴落したルーブルはすぐに持ち直していた。GDPで見る限り、西側の経済制裁は効果がなかったという評価が妥当であり、ロシアの粘り勝ちのシナリオが見えてきた。

3月31日、あらたに15万人をロシア軍に徴兵する大統領令にプーチン大統領が署名した。今後、ロシア軍に戦死者が増えて徴兵が常態化すると、国内の不満が溜まっていく可能性は残る。しかし、現時点では国民の生命や財産がある程度守られている。国民の支持は引き続き高く、プーチン大統領は余裕綽々しゃくしゃくで選挙結果を聞いたに違いない。

ロシアのプーチン大統領
ロシアのプーチン大統領。

国内でも海外でも評価を下げているゼレンスキー大統領

国内で盤石のプーチン大統領に対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は急速に支持を失っている。

ゼレンスキー氏が大統領選挙に初当選したのは19年。ウクライナ大統領の任期は5年で、平時なら今年の3月に大統領選挙が行われるはずだった。

しかし、ゼレンスキー大統領は国内での求心力が低く、今選挙をすれば再選が危うい。結局、政府は戒厳令を理由に選挙を延期した。対戦相手のロシアが大統領選挙をしたのだから、やってやれないことはなかったはずだ。

国民からの支持を失っているのは、戦況の厳しさも影響している。ウクライナ軍がドローン攻撃で勝利したというニュースが盛んに流れてくるが、あれは散発的な勝利をおおげさに伝える「大本営発表」で、第二次大戦末期の日本でもよく見られた光景だ。敗色が濃いことを知ってか、徴兵逃れも横行。侵攻以降、徴兵対象の男性2万人以上が国外に脱出し、若者は徴兵免除を目的に続々と大学に入学している。

ゼレンスキー氏は海外からの支持も低下している。実は、ウクライナは汚職大国だ。第2代大統領のレオニード・クチマ氏をはじめ、ウクライナの歴代の大統領や首相は、国民のことよりも自身の保身と蓄財に執心していた。喜劇役者出身のゼレンスキー氏が大統領になれたのは、ドラマ「国民のしもべ」と実際の選挙の両方で反汚職を掲げたからであり、汚職の一掃には海外からも期待が高まった。ところが、ゼレンスキー政権が誕生しても、役人の汚職体質はまったく払拭されていない。

西側諸国はロシアの暴走を止めるため、これまで積極的にウクライナを支援してきた。しかし、お金や武器、物資をつぎ込んでも、汚職が横行していては、正しく使われているのかよくわからない。大統領になって4年も経つのに汚職体質を正せないのは指導力不足。ウクライナに支援を続けるとしても、ゼレンスキー大統領ではダメというのが西側諸国の本音である。