可能性を感じるモデルだっただけに残念

が、「Honda e」はまったく成功の見込みのないクルマだったかというと、そうはまったく感じなかった。生かしようによってはホンダのブランドバリューを引き上げるのに貢献するモデルに育てられた可能性もあった。その意味では何の改良を施すこともなく3年あまりでディスコンというのはいかにももったいないと思ったのも確かだった。

Honda eのインフォメーションディスプレイ
写真=筆者撮影
インフォメーションディスプレイは2枚。表示内容を簡単に変更できる

「Honda e」の開発陣の狙いは市販版とは大きく異なっていた。「Honda e」の市販版のプロトタイプが初めて公開された2019年、定年退職で離脱を余儀なくされたが完成間近まで開発を指揮していた本田技術研究所の人見康平氏はコンセプトを次のように語っていた。

「製造時にCO2を大量に排出するリチウムイオン電池の総容量は35.5kWhに絞るが、急速充電30分で200kmぶん充電可能として長距離移動もこなせるようにする。価格は日本円で400万円以下」

「大型バッテリー車と互角」の設計だった

小容量バッテリーにもかかわらず30分で200kmぶん充電可能というのは当時としてはかなり先鋭的なコンセプトだった。

筆者は大型バッテリーを積む日産自動車「リーフe+(62kWh)」、ヒョンデ「アイオニック5(72.6kWh)」で横浜~鹿児島間をツーリングしたことがある。「リーフe+」は中継充電30分×6回、アイオニック5は同5回で鹿児島に到達した。満充電で出発後、初回充電まで400km、その後は1回の急速充電あたり、リーフは平均180km、アイオニック5は平均220kmずつ積み増されるというイメージである。

かりに「Honda e」が人見氏の狙った性能を持っていたとしよう。充電率100%で出発後、「リーフe+」、「アイオニック5」に比べて、初回充電までの走行距離が短く、1回余分に充電する必要があるが、それ以降は両モデルと似たようなペースで走れる。

カーボンフットプリント(製造時の環境負荷)の低い小型シティコミューターでありながら、大型バッテリー車と互角の使い方が可能なのだ。