どうすれば子どもは本を読むようになるのか。灘中学校・高等学校の国語科教諭を務める井上志音さんは「『子どもが読書をしなくて困っている』とおっしゃる保護者の方には、なぜ子どもに読書をしてほしいのかを自分に問いかけてみてほしい」という――。

※本稿は、井上志音著、加藤紀子聞き手『親に知ってもらいたい 国語の新常識』(時事通信社)の一部を再編集したものです。

本も漫画も「楽しいから読む」もの

Q子どもが読書をしません。好きなゲームの本だったら読むかと思って買ってみたものの、画面の写真だけを見て、文字を読もうとしません。どうすれば本を読んでくれるでしょうか。

【加藤】読書のきっかけはなんでもいいですよね。たとえば漫画がきっかけで歴史ものの本を読むようになったという話はよく聞きます。

【井上】もちろん漫画でもいいと思います。ただ、基本的に本も漫画も「楽しいから読む」ものですよね。動機づけがなければ何も進みません。何のためにするのかと言うと、自分のためですから。そこを大事にしながら興味・関心の幅を広げていくことが大切です。「何かの力をつけるために読書をしましょう」と、読書の動機づけとして目的をぶら下げるのであれば、それはナンセンスです。

【加藤】内発的な動機による行動に対して、外的な報酬などを与えることでモチベーションの低下を招いてしまう現象は「アンダーマイニング効果」と言って、1971年に心理学者のデシとレッパーによる実験で証明されています。純粋に楽しむ行為に「目的」を放り込んでしまうことによって、子どもの無気力さを増長してしまうというのは、こうした研究で証明されていることなのですね。

書籍
写真=iStock.com/jovan_epn
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子どもが読書をしている家庭は「環境」が違う

【井上】「子どもが読書をしなくて困っている」とおっしゃる保護者の方には、なぜ子どもに読書をしてほしいのかと問いかけてみたいですね。

また、保護者の中には、ご自身が子どものころに読書をしていた方と、読書をしていなかった方がいると思います。後者の方は、なぜご自身は読んでいなかったのに、子どもには読書を要求するのだろうと思うんです。

私は小学校時代は中学受験があったためにほとんど読書をしませんでした。ただ、妻は文芸作品をよく読んでいたようです。家に本があって、ほかに娯楽がなかったからだと言います。でも今は子どもたちに本を読むようには言いません。子どもが本をほしがったときに買い与えるというスタンスです。

【加藤】子どもが読書をするには家庭の環境づくりがとても大切だと言われています。

たとえば厚生労働省の調査では、子どもが1カ月に読む本の冊数は、両親が読む本の冊数が多くなるほど増える傾向となっていることがわかっています(*1)。ベネッセコーポレーションの調査でも、1カ月に3冊以上読む人が読書を好きになったきっかけとして、子どものときに読み聞かせてもらったとか、身近な人が本を好きだったからという回答が多かったようです(*2)

*1 厚生労働省「第8回21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)の概況
*2 ベネッセコーポレーション「第1回 現代人の語彙に関する調査」結果速報

子どもが読書をしている家庭では、親に読書の習慣があったり、読み聞かせをしていたり、家族が集うリビングに本棚があったりするなど、子どもが読書をしたくなるきっかけが家庭内にあることがさまざまなリサーチでわかっています。まずはそうした「環境づくり」に取り組んでいただくといいでしょうね。