人はなにかを禁止されると、かえってそのことが気になり、やりたくなってしまう。一体なぜなのか。ペンシルベニア大学のジョーナ・バーガー教授は「人間は本能的に自由を取り戻そうとする作用が備わっている。心理学的には『心理的リアクタンス』と呼ばれるものだ」という――。

※本稿は、ジョーナ・バーガー『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

洗濯用洗剤
写真=iStock.com/Juanmonino
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人間には「反発システム」が生まれながら備わっている

心の変化を妨げる主な障害のひとつに、「心理的リアクタンス」がある。「心理的リアクタンス」とは心理学の用語で、「何かを選択する自由が外部から脅かされたときに生じる、自由を取り戻そうとする反発作用」という意味だ。

人間は押されたら本能的に押し返す。ミサイル防衛システムと同じように、こちらに向かって飛んでくるミサイルを検知したら、自動的に反撃に出る。人間には、自分を説得しようとする力に反発するようなシステムが生まれながらに備わっている。

このシステムの作動を阻止するのがカタリスト(変化の触媒)の役割だ。こちらが相手を説得するのではなく、相手が自分で自分を説得するように持っていく。

アメリカで流行した「洗剤食いチャレンジ」

ひとつの例を挙げよう。

2018年はじめ、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社はPR上のちょっとした問題を抱えていた。

P&Gが販売していた、固形のタブレット「タイド・ポッド」を、人々が食べるようになったのだ。

いわゆる「タイド・ポッド・チャレンジ」は、最初はジョークとして始まった。洗剤の入ったプラスチックのパッケージは、鮮やかなオレンジと青の渦巻き模様で、見るからにおいしそうだった。それに大きさもちょうど一口サイズだ。

アメリカの風刺新聞「ジ・オニオン」に「洗剤ポッドがあまりにもおいしそうだから食べることにした」という冗談記事が掲載されると、本当にタイド・ポッドを食べ、その動画をネットに投稿することが若者の間で大流行した。

そこでP&Gは、販売元の会社として当然の対応をした。洗剤を食べてはいけないと警告を出したのだ。2018年1月12日、タイドはこんなツイートをした。