地方は日本の課題先進地

――仕事を辞めて移住とは大きな決断でしたね。

【岩本】年収は下がるし、契約期間も3年間と将来が保証されているわけではないので、確かに大きな決断でした。でも、チャレンジする価値があると感じたんです。

当時、隠岐島前高校は生徒数が減って、統廃合の危機にありました。島に唯一の高校がなくなるというのは大問題です。高校がなくなれば、子どもたちは進学したかったら、島を出て行かざるをえない。ますます過疎化が進んでしまいます。

そして、気づいたんです。高齢化や過疎化、それに伴う財政難など、この島で起きていることは、日本社会がいずれ直面する課題だと。地方は、日本が抱える課題の先進地なんです。この課題を解決するモデルをつくることができるとしたら、少子高齢化にあえぐ日本の希望になる。やるしかないと腹をくくりました。

越境体験は国内でもできる

――どのようなことから着手したのでしょうか。

【岩本】高校、自治体と協力して、「島留学」を始めました。都会の高校生に島に留学してもらおうというプロジェクトです。

見学に来ている中学生に説明(島根県立隠岐島前高等学校)
写真提供=島前ふるさと魅力化財団
県外からの見学者と話をする島根県立隠岐島前高校の生徒。「留学」を始めてから生徒数だけでなく、来島者が増えた。

僕自身、東京で生まれ育ったから、島前に行ったときに、ものすごくカルチャーショックを受けたんですよ。ニューヨークとかロンドンで仕事するよりも、島のほうが文化の違いは大きいんじゃないかと感じたぐらいです。

海外でも大都市の企業だったら、言語は違えど共通のビジネスの論理、フォーマットがあって、ある程度コミュニケーションが成り立つじゃないですか。でも、島では、同じ日本語を使っているのに文化が違うんです。僕自身、地域に入っていった最初のころは、自分が培ってきたやり方が通用しなくて、打ちのめされました。

――学生時代に海外でいろんな経験をした岩本さんがそうなら、高校生はもっと大きなカルチャーショックを受けるでしょうね。

【岩本】島前に行ってみて感じたのは、必ずしも海外に行かなくても、日本には多様な地域があって、そこへの越境で大人も成長させてもらえるということでした。自分自身のその体験があったから、日本の地域でもやれると考えたんです。