ダムでほぼ絶滅させた川魚を「守れ」と主張する矛盾

2つのダムによるヤマトイワナへの影響はあまりにも大きかった。

ダム建設のために道路を造り、大量の工事車両が入り、土砂が流れ出した。その周辺のヤマトイワナはすべて絶滅したといわれている。

西俣ダム下流の西俣川の河川維持流量は毎秒0.12トンしかない。

JR東海のリニア工事基地近くの大井川支流の西俣川(静岡市)
筆者撮影
JR東海のリニア工事基地近くの大井川支流の西俣川(静岡市)

1997年、動植物の生息等に必要な河川環境を保全するための河川法改正以前に決められた数値だから、渇水期にダムからの水が切れてしまい、イワナが大量死したこともあったという。

つまり、ヤマトイワナが絶滅危惧種となったのは、大井川に生息しなかったニッコウイワナを井川漁協が放流したことと、最上流部の電力ダムの影響が大きいのである。

静岡県を含めた地域全体がヤマトイワナを追いやったのが絶滅危惧の原因である。

それなのに川勝知事は、リニアトンネル建設地域では、ほぼ絶滅したとされるヤマトイワナの保全を求めている。

「守れ」と言う割に採捕は禁止しない

川勝知事の主張にはちゃんとした根拠があるのか?

アカウミガメとヤマトイワナの違いを明らかにすれば、それがわかる。

アカウミガメは、静岡県の静岡海区漁業調整委員会が海での採捕を禁止している。さらに、希少動植物保護条例の指定種として、海岸での卵を含むすべての採捕を禁じている。

過去には、遠州浜海岸でもアカウミガメを採捕していた。

浜名湖で養殖されるスッポンと違い、日本ではアカウミガメの肉はあまり食用に適しておらず、卵のみが採捕され、築地市場などに送られていた。フランス料理では、高級食材である。

現在では、厳しい罰則規定を設けて、あらゆる採捕を禁じている。つまり、日本では、アカウミガメを人間は「食べてはいけない」のである。

国際保護動物であり、県指定の希少種であり、馬塚さんらの自然保護団体はじめ地域全体でアカウミガメを保護保全している。

となれば、リニアで「環境保護」を叫ぶ川勝知事にとって、大型ドーム球場建設などもってのほかのはずである。

一方、ヤマトイワナは県の絶滅危惧種だが、県は採捕を禁止する希少種に指定していない。

ヤマトイワナはアカウミガメと違って、漁業権魚種なのだ。

サケの仲間の川魚であり、スーパーマーケットなどでめったにお目に掛かれないから、山間部の美味として昔から親しまれてきた。

当然、現在でも、採捕して食べても何ら問題はない。

太平洋のクロマグロが絶滅危惧種に指定されながら、青森県大間のクロマグロが高級食材として食べられるのと同じである。

食べることができないアカウミガメとは全く違うのである。