業績低迷から「V字回復」を遂げたが…
低価格イタリアンレストラン・チェーン、サイゼリヤの決算に注目が集まっています。同社の23年8月期は、売上高が前年同期比27%増の1832億円、営業利益は実に前年同期比約17倍の約72億円(昨年同期4.2億円)を計上し、コロナ禍での業績低迷からのV字回復となる大幅な増収増益決算となりました。
サイゼリヤは2019年8月期に営業利益95億円という好決算を記録したものの、20年8月期以降はコロナ禍で客足が伸びず3期連続で業績が低迷し、苦戦を強いられていました。今回の好決算に市場も好感し、決算発表翌日にはストップ高を記録して年初来最高値を更新しました。
しかし決算の中身をよくみてみると、その実態には若干の懸念を覚えます。サイゼリヤは国内に1055店舗、海外に485店舗(いずれも23年8月末)の、合計1540店舗で運営されています。
今決算を地域別にみてみると、全店舗の3分の2を占める国内は約15億円の営業赤字を計上しており、残り3分の1であるアジア地域が約84億円の営業利益を上げてこれを埋め合わせているという、いびつな構図になっているのです(他にオーストラリアがあるが、同地域に店舗はなく製造拠点関連のみで約2億円の営業利益を計上している)。
「値上げしない」方針が利益を食いつぶしている
すなわち国内では、コロナ禍は一段落したものの物価高と円安のダブルパンチ傾向が続く中で材料コストが上昇し、原則「値上げをしない」という経営方針の下で利益を食いつぶしているという状況にあります。
一方、昨年来の急激な円安傾向は、海外店舗売上の円換算で大きくプラスに働いています。さらに中国はじめアジア地域では賃金が上昇傾向にあることからメニューの値上げも実施され、この地域での営業利益が前年比で約4倍にも増加したことが今回の決算に大きく寄与しているのです。
サイゼリヤの歴史を紐解くと、1967年に創業者で現在も会長を務める正垣泰彦氏が、東京理科大学物理学科在学中に始めたイタリアンレストランがその発祥です。集客に苦しんだ創業当時、メニュー価格を一斉に7割下げたことで繁盛店に転じ、その後の多店舗展開の基礎を築きました。この経験から、「安い価格で美味しい料理を提供する」という基本方針を固めます。
以来、現在に至るまで、ミラノドリア300円やグラスワイン100円などの破格の低価格メニューを貫き、これを徹底して守ってきているのです。