困ったメーカーは新入社員に札束を持たせて、ヨドバシカメラ店頭の自社カメラを買い占めさせた。品切れにして、系列店に客を戻そうと考えたのだ。

数年にわたってバトルは続いたが、結局メーカー側が負けた。ヨドバシカメラに負けた系列店はEC(通販)化の波にも乗れず、つぶれてしまった。

私はどんな人物に負けたのか気になって藤沢さんを表敬訪問したら、人のいいおじさんが出てきた。以降は藤沢さんが長野県の地元・富士見高原で漬けている野沢菜や、手製の炭をもらうほど仲良しになった。

藤沢さんは、当時からプッシュフォンやコンピュータの使い方もうまかった。その後、アマゾンにも引けを取らないECシステムをつくったのも納得で、配送まで自社でやる徹底ぶりだ。自社ECが強いので、リアル店舗は確実に儲かるところにしか出店しない。ヨドバシカメラが各地で快進撃を続けているのも、勝てる立地を厳選して投資をしているからである。

構造変化を踏まえた、現実的な一手が必要

実は今回も同じだ。そごう・西武は全国に10店舗あるが、ヨドバシカメラが興味を示しているのは西武池袋本店、そごう千葉店、西武渋谷店だけだという。千葉にはすでに店舗があるが、渋谷はヨドバシカメラの出店で相当な集客が見込める。しかし、残りの7店舗についてはフォートレスの経営手腕が問われるだろう。セブン&アイHDでもうまくいかなかったものを、フォートレスが立て直せるのかは未知数だ。

フォートレスは当初、そごう・西武の改装や設備投資に200億円以上投資すると発表していた。8月31日に決行されたそごう・西武のストライキを受けて、9月5日には投資額を600億円以上に増やした、雇用も当面維持すると発表。その様子を見ると、フォートレスからそごう・西武を食い物にしてやろうという悪意を感じない。しかし、善意だけで再建ができるほど百貨店を取り巻く環境は甘くない。今起きている構造変化を踏まえた、現実的な一手が必要である。

百貨店業界の窮状を少しでも理解していれば、ヨドバシカメラが3000億円もの資金を投入して乗り込んでくると聞くだけで(少なくとも池袋は)万々歳なのである。為政者でありながら時流が読めていない前豊島区長の発言は、見当違いも甚だしい。世の中のことをもっと勉強してほしかった。

(構成=村上 敬)
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