テレビのコメンテーターやユーチューバーの発信力は強い。それはなぜなのか。神戸大学大学院医学研究科教授の岩田健太郎さんは「医療関係者にも、『人気がある』という理由だけで特定のユーチューバーの健康情報を頭から信じ込んでいる人がいる」という。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんとの対談をお届けしよう――。

※本稿は、内田樹・岩田健太郎『リスクを生きる』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

人物の前にビジュアルコンテンツのイメージが浮かんでいる様子
写真=iStock.com/metamorworks
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「フォロワー数がすごい」だけで信じ込んでしまう

【岩田】僕の周りの医療関係者にも、特定のユーチューバー(YouTuber)の言うことを頭から信じ込んでいる人がいます。「ナントカという食べ物が健康を促進する」「この飲み物が美容に効く」など、映像を伴って発信してくる情報を素直に信じてしまうんです。僕に言わせれば医学的に根拠がないし、そもそも何の医療教育も受けていない人の話なんて信じられるわけがないんですが、「人気がある」「フォロワー数がすごい」というだけで一から十まで追随してしまう。医学的教育を受けた人でもコロッと騙されるのを見ると、言葉を失ってしまいます。

【内田】これはかなり根深い問題ですね。その人のポピュラリティと発言の信頼性の間には相関がないんですけれど。科学教育の問題ですか。

【岩田】確かにそうですね。日本の学校教育では、教師が教壇から伝える「正解」をそのまま吸収できる生徒が優秀だと見なされます。「ほんとですか?」「なぜですか?」と疑ったり質問したりする子は、出来の悪い生徒なんです。

事実を検証する姿勢が、医療のレベルを上げる

【岩田】本来なら、逆であるべきです。あらゆる常識に対して懐疑的な姿勢を持ち、世の中で当たり前とされていることでさえも本質的には正しいのかと掘り下げる行為が学問の初手ですから。「サイエンティフィック・マインド」と言いますが、事実を「検証」することが学びには不可欠なんですね。ところが日本の教育現場は、教師が教え込む正解主義があいかわらず大手を振っている。優秀と言われる学生ほど、呑みこみが速くて素直なんですね。大学生でさえも、「正解を教えてください」「結局、何が正しいんですか」という受け身のスタンスで教えを待っている。

感染症領域で言えば、日本はまだまだこれからなので、間違った古い常識が「正解」とされ継承されていく懸念があります。若い世代にはもっと疑ってかかってほしいし、まったく異なる視点から事実を見極め前例を覆してほしい。忠実に責務をこなすばかりでなく、「岩田教授はそう言ってるけど、科学的にここが疑問です」と異論や批判を挟む人がいてこそ、医療のレベルは進歩するのです。