凋落する業界からは転職するなら、いつがいいのか。「東洋経済オンライン」を牽引し、現在は『週刊東洋経済』の編集長を務める山田俊浩氏は「感情的には動かないほうがいい。僕の場合は、会社に残るという『決断』をしてよかった」と語る。HONZ代表の成毛眞氏が聞いた――。

※本稿は、成毛眞『決断』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

テキストメディアが増えすぎてしまった

【成毛】山田さんについて、世間一般では「『東洋経済オンライン』を大躍進させた人」というイメージが強いかもしれません。サイトの編集長は何年やりましたか。

HONZ代表の成毛眞氏(撮影=中央公論新社写真部、以下すべて同じ)

【山田】4年半ですね。前任の佐々木紀彦さん(現NewsPicksCCO)が2014年の5月に辞めて、その後任でした。サイト自体は、彼が2012年11月にリニューアルをしていて、一時期5000万PVに。引き継いだときは月3500万PVくらいだったかと。

【成毛】それを山田さんが2億PVまで伸ばした。

【山田】ほとんど右肩上がりで、2億PVまで、2年ほどかけて到達しました。ただ2億6000万PVくらいまで行った後、停滞してしまいました。「Yahoo!ニュース」が120億PVもあるわけだし、まだまだ伸びるだろうと思っていたのですが、これがなかなか難しかった。「文春オンライン」や「現代ビジネス」が頑張っているとか、みんながうちのやり方を真似し始めたからとか、理由はありますが、やはりテキストメディアの飽和が生まれてきている、ということを感じています。

一度成功すると「枠」を壊せなくなる

【成毛】Yahoo!ニュース」とは読む層も、母数も違う。だって突き詰めれば、『週刊東洋経済』を読む層であるビジネスマンとは、日本全体の5%もいないわけですから。

【山田】そうですね。異動した今だからいえますが、編集長を務めた4年半のうち、最後の1年くらいは余計だったかな、という思いもあって。それは仕事が嫌になったとか、飽きたから、という意味ではなく、成長を停滞させてしまった、というだけですが。自分の力では、この場所で新しく打つ手がもうないな、と。

【成毛】自分が編集長をやっていながらも、誰かに代わった方がそのメディアが良くなる、と感じた、と。もうそろそろ俺は限界だとか、そこまで思わなくても、代わってほしいって。

【山田】仕組みを変えなければいけない、とは考えていましたが、それは僕ではできないなと、思っていました。既存の枠組みをバージョンアップさせることはできそうだけど、新しいプロジェクトを起こせそうにはない。一度成功してしまったことで、ジレンマがあったのかもしれません。2億PVまで伸ばせたから、逆にその枠組みを壊しにくかった。PVを少し落としてでも新しいことにトライ、とまでなかなか踏み切れなかった。既存の体制を引きずったまま新しいことをやろうとすれば、まず従来の仕事に膨大な時間が取られる。結局、新しいことまで手が回りませんでした。