トヨタ自動車の力の源泉はどこにあるのか。それは「生産現場」にある。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏はこの7年間で70回、トヨタの自動車工場を訪ねたが、蛍光灯やLED照明が切れているのを一度も見たことがないという。それだけではない。最大の特徴は「働いている人がふてぶてしいこと」だという。どういうことなのか――。(第2回)
中国の広州にあるトヨタの自動車工場の内観。野地氏が見た限り、切れている照明はなかった。

現場が強くなければ会社は存続できない

トヨタ自動車の2018年3月期の売上高は6.5%増の29兆3795億円で、最終利益は36.2%増の2兆4939億円。2年ぶりに過去最高を更新している。

トヨタは日本一のメーカーであり、フォルクスワーゲングループ、日産グループと世界首位を争う会社だ。そのトヨタの力の源泉は製品を造っている場所、つまり生産現場にある。これはメーカーであればどこも同じだろう。そして、物流業であれば輸送の現場、小売業であれば販売の現場が強くなければ会社は存続できない。

だから、わたしは現場の最前線を見に行く。本社の会議室で広報担当の説明を受けても、もしくは膨大なペーパーをもらっても、企業の本質に迫ることはできない。現場を見れば、その会社の商品の力がわかる。現場に行けば経営方針が前線まで届いているかどうかがわかる。企業の力を知るには現場へ行かなければならない。

耳栓をしなくとも、普通のボリュームで話ができる

本(『トヨタ物語』)を書くために、自動車工場を70回、見学した。トヨタだけではない。業界他社も見に行った。そして、日本だけでなく、アメリカと中国の工場も見学した。

最初に気づいたのは「音」だった。現在の工場はどこも、私たちが想像するよりも騒音は少ない。

トヨタの工場に限らず、わたしが訪ねた工場は耳栓をしなくとも、普通のボリュームで話をすることができた。鉄と鉄がぶつかり合うプレス工場、鍛造工場でさえ、現場の作業者は耳栓をしているわけではない。特定の瞬間、大きな音がする場合もあるけれど、機械のよほど近くにいない限り、耳を押さえるということはない。労働環境の改善は進んでいる。

また、わたしは「作業者」という言葉を使った。現在、製造業の現場で働く人のことを工員とか労働者と呼ぶことはない。誰もが作業者と呼ぶ。同じように、アメリカでもワーカーという言葉は使わない。アソシエートと呼ぶのが一般的だ。だが、トヨタのアメリカの工場では1980年代からアソシエートではなく、「チームメンバー」と名づけた。今ではヒュンダイのアメリカ工場でも作業者をチームメンバーと呼んでいる。呼び名ひとつとっても、世の中の大半の人は工場のことを知らない。