※本稿は、田中知子『口下手さんでも大丈夫 本音を引き出す聞き方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
リズムやテンポがよい会話
弾む会話というのはリズムとテンポがよいもの。リズムやテンポのよい会話とは何か。それは話の合間に、短いフレーズの質問(ショート・クエスチョン)を挟んでいるんです。たとえば、
B「え! 何?」
A「国技館に初めて大相撲を観に行ってきたの」
B「へぇ! どうだった?」
A「生で観るとやっぱりいいね。迫力が違う」
B「おお、迫力。どんな感じ?」
A「バチーンと力士と力士があたる音が聞こえてきて、カッコよかった」
B「へぇ! それでそれで?」
A「相撲の知識がなくても興奮する。拍手もダイレクトに聞こえてくるし」
B「で、で?」
A「もうドハマりした。来場所も絶対行きたい」
特に「何?」「どんな感じ?」「で、で?」といったショート・クエスチョンがより軽快なリズム感を生み出しています。「初めての体験ってどんな体験?」ではなく「なに?」。「生で観るのとテレビ観るのどう違うの?」ではなく「どんな感じ?」。というように相手がノッてきているときにはぜひ短いクエスチョンでさらに弾ませましょう。トランポリンのようにポンポンいきたいですね。相手は興奮状態で聞いてほしいので、自分の話を挟むのはほどほどに、と肝に銘じています。
相手は運転者、あなたはアクセル
逆に長い質問をするとせっかくのリズムが崩れ、話が滞ります。まとめとふりが長い人はわかりやすくしようと、しっかりまとめてから次の話題へいこうとするのです。自分の話も入れて、完全に話の腰を折っている状態です。
話を盛り上がりやすくするのに「テンポは命」です。
相手が興に乗って話しているときは、まずはリズムとテンポ重視でOK。「それで?」「次は?」「ちなみに?」など「3、4文字」程度の相づち質問がおすすめです。ショート・クエスチョンで話を加速させる。すると相手はリズムに乗ってポンポンと答えてくれるし、それに合わせてテンポも良くなっていきます。
相手は運転者、あなたはアクセル。短い相づちの質問でアクセルを踏むように話を加速させましょう。
魔法の「ひと言」リアクション
話すといつも気分が盛り上がる、そんな持ち上げ上手なM先輩がいます。Mさんの相づちは、いつも話の頭に「おっ!」がついていること。
お酒の席でビールから日本酒に変えようとするだけで、「おっ! いいね」。全てを肯定してくれるこのリアクションに心が弾んでしまいます。他には、
【例①】
「Mさん、髪切りました」
「おっ! 似合うね」
【例②】
「Mさん、ちょっといいですか?」
「おっ! きた!」
まだ中身を話していないのに、このリアクション! たったひと言、いや一音なのに、あるのとないのとでは全然印象が違うんです。話の勢いもリズムもついてくるではありませんか。そして、この「おっ!」とつけると、必ず肯定の言葉が続きます。「おっ! いいね」とはなるのに「おっ! 変だね」「おっ! 違うね」とはならないんです。なぜか否定の言葉と合わない。相手からもネガティブワードを引き出さない、超前向きな相づち。気持ちが弾む「おっ!」の効果、ぜひ使ってみてください。
会話に軽快なリズムができる
私のまわりにもう一人「おっ!」の達人がいます。言葉で人を盛り上げる地元青森の大先輩、タレントの十日市秀悦さん。もちろん、穏やかで楽しい人柄によるところも大きいです。ですが、なぜ、十日市さんとの会話がこんなに気分が上がり話が弾むのか、その理由はいつも「おっ!」ってリアクションしてくれるから。
「実は、会社を立ち上げたんです」
「おっ! いいね」
「それに念願だった大きな仕事も決まったんですよ」
「おっ! いい流れが来てるってことだよ」
会話に軽快なリズムができてついウキウキ話を続けたくなるのです。会話を弾ませる魔法のひと言相づち。話をポジティブな気持ちにさせてくれるので、使わない手はないですよ。
声を出さずに話を盛り上げるには
NHKではディレクターとして番組をつくる側にも携わっていました。
テレビは視聴者が聞きたい情報は取材対象の声であり言葉なので、質問するディレクターの声や相づちは極力無くしたいもの。新人のころはそれを知らず、インタビューで「はい」「へぇ」と声に出してリアクションをとっていました。
素材を見た編集マンから、「田中の声が入っていると音の編集がしにくい」と注意されました。会話で相手と私の声が重なって話してしまうと、それぞれの声を分ける編集が難しいからです。これはインタビューに限らず、たとえば、声をかぶらないようにしたいオンライン動画の会議でも同様です。
まして、テレビ取材では相手は緊張する場面ですが、相手にリラックスして話してもらいたい。話を盛り上げ、深いコメントを引き出したい。しかし、声を出さずに聞いて引き出すにはどうしたらいいのか――。
そこで教えてもらったのが、心のなかに湧き上がってくる感情を顔(表情)で表現する「顔相づち」でした。
「なるほど」なら、かみしめるように深くうなずく。
「へぇ~」なら、意外だなという表情をつくる。
「ほんとに!」なら、目を大きく見開いて驚きを表現する。
このように「心の声を口に出さずに顔に出す。しっかり大げさに表現する」というリアクションを取ることにしたのです。ポイントは「大きく」です。
普段よりも3割増しくらい、「そうそう‼」「ええ‼」と、心の声にビックリマークを2つつけ加えるイメージで表情をつくるくらいがちょうどいいです。
目だけでもリアクションは取れる
「顔相づち」だけで相手の話はテンポよく進んでいきます。顔相づち、そして目だけでも相手の話を聞いていますよ、というリアクションを取ります。
ラジオの仕事でも役立っています。今もマイクの前の私は、百面相のように「へぇ」「ほー」「ええ‼」と顔相づちを炸裂させています。ゲストの方からは、「田中さんがニコニコ大きくうなずいてくれるから安心、話しやすかった」と言ってくださいます。
想いが伝わるのなら、別に「言葉」でなくてもいいのです。
相手の言葉を、目で、顔で受け止めてください。言葉ではうまいことを言えなくても、「顔」でリアクションできれば、それだけで会話は変わっていきます。
流暢に話すことだけが会話上手、聞き上手ではありません。
あなたの目、顔がたくさん語ってくれますよ。
