素晴らしい経歴やキャリアがあっても、恋愛や結婚となると途端にうまくいかずに悩む女性は多い。アラフォー・アラフィフ専門婚活カウンセラーの伊藤友美さんは「婚活がうまくいかない沼に陥ってしまう人の中には、無意識のうちに男性のことを恨んだり見下したりしている人が少なくない。その原因は、父親や元カレ、子どもの頃の体験など身近な男性との関わり方にあることが多い」という――。
オフィスでセクハラを受けている女性の手元
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「婚活沼」にハマりやすい女性の共通点

婚活沼とは 結婚すると決断しないままずるずると婚活し続け、異性との間に起こる現実に一喜一憂する状況を指す。

婚活沼にハマってしまう理由は人によってさまざま。今回は、子どもの頃から長年「私はブサイク」「こんな私が男性に愛されるはずがない」と思い込んできた女性の例を紹介する。

※プライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

E美さんは39歳の研究職の女性。「婚活のメソッドに本当に効果があるのか実践してみたい」と私の開催する婚活セミナーに参加してくれた。ところが、よく話を聞いてみるとE見さんには現在おつき合いをしている男性がいるというではないか。

「つき合っている人がいる状態で婚活を始める」というのは、婚活がうまくいかない典型的なケース。

つき合っている相手と結婚できない、あるいは結婚を考えられないなら、まずその関係を清算するのが先。つき合っている人がいながら婚活をするのは、交際相手にも婚活相手にも不誠実だといえる。

つき合っている人がいるのに他に結婚相手を探す理由を尋ねると、E美さんはこう答えた。

「彼は私のことを本気で好きではないからです。おそらく私の体目当てなんだと思います」

「あんたはブサイクなんだから」

カウンセリングを重ねるなかで、E美さんが根深い「容姿コンプレックス」を抱えていることがわかった。その根底には、子どもの頃の体験がある。E美さんは、小学生の頃に同級生の男子からいじめを受けていたのだ。ご本人いわく「色黒で大柄」だったというE美さんは、容姿のことをからかわれてきたという。

容姿にコンプレックスを持つきっかけになったのは、同級生からのいじめだけではない。E美さんは事あるごとに母親から「あんたはブサイクなんだから、せめて勉強だけでもがんばりなさい」と言われて育ったそうだ。

私から見たE美さんは、笑顔がかわいらしく、魅力にあふれた女性。母親の言葉は、きっと本心からではないだろう。ときどきわが子のことを自分のことのように謙遜してしまう親がいるが、E美さんの母親も、勉強ができる娘に対して、そうだったのかもしれない。10年前に亡くなってしまったそうなので、その真意を確かめることはできないけれど。

E美さんは、母親の言いつけ通り勉強に打ち込んだ。その結果、中学受験で中高一貫の女子校に合格し、大学受験では東京大学へと進んだ。大学では理系を専攻して現在は研究職に就いている。

とても立派な経歴で、自信に溢れていてもおかしくないのだが、子どもの頃に母親にかけられた心無い言葉に、E美さんはいつまでも囚われていた。

「近づいてくるのは既婚者くらい」

容姿コンプレックスと並んで、E美さんの婚活を阻むマインドがある。

それが、「男性に対する恨みや見下し」だ。E美さんは、小学校時代に同級生の男子に「気持ち悪い」と容姿をからかわれ、いじめを受けたことを今も許していない。

恋愛経験はあるが、E美さんいわく「私に近づいてくるのは既婚者くらい」だそうで、これまでにつき合った相手は2人とも既婚者だった。初めは離婚をちらつかせて近づいてきたのに、結局妻と別れる気配はないまま、ズルズルと関係を続けてしまったことをE見さんは後悔しているという。

婚活沼に陥ってしまう人の中には、無意識のうちに男性を恨んだり見下したりしている人が少なくない。その原因は、父親や元カレ、子どもの頃の体験など身近な男性との関わり方にあることが多い。

E美さんもその典型だ。E美さんの発言の端々には、男性に対する「恨み」や「見下し」の気持ちがうかがえる。たとえば、「男は敵」「私を大事にしてくれる男性なんていない」「どんな男も、どうせ浮気をする」というような言葉だ。「体目当て」という発言もそのひとつだ。

結婚への意思を「はぐらかされた」ら…

今交際している彼とは、1年ほど前に婚活アプリで出会ったという。彼は独身だが、お互いに仕事が忙しいので会えるのは月に1、2回。夕食を食べてホテルへ行くのがお決まりのコースで、休日に会うことはほとんどない。E美さんが、彼が自分とつき合っているのは「体目当て」だと思い込んでいるのはそのせいだった。

つき合い始めの頃に「結婚のことはどう考えているの」と聞いてみたことがあるという。「今は仕事が忙しくて無理だけれど、そのうちに考えたいと思っている」と彼は言ったそうだ。その返答に、E見さんは「はぐらかされた」と感じた。男性心理に立ってみると「急に言われても……。まだ付き合って日が浅いし、今は結婚を真剣に考えるのは先送りにしたい」という状態であったことが想像できる。

E美さんが過去につらい思いをしたことは事実だろう。けれど、現在はどうだろうか。今の彼は「体目当て」でE見さんとつき合っているなどとは言っていない。現段階での結婚への意向を正直に話したことを「はぐらかした」と決めつけているのは、E美さん自身だ。

もし、E美さんが「結婚したい」と強く思っているならば、「私は結婚したいから、あと1年待つつもりはない。でも、私はあなたと結婚できたらうれしい」と自分の気持ちを伝えることをすすめる。あとは、彼に考えてもらえばいい。

そもそもE美さんは彼のことがそんなに好きなのかと質問してみると、どうも「自分は一人ではなく、相手がいる」という状態こそが大事なように感じた。これでは、相手が煮え切らないのも当然だろう。

入院のことを彼に伝えると…

E美さんはこれまで、「自分はブサイクだ」「私には既婚者しか近づいてこない」「私とつき合っている人は体目当てだ」などと、E美さん自身に対して、あまりにも失礼な言葉をかけ続けてきた。

「婚活をするよりも、自分にひどい言葉をかけてきたことを自分自身に謝罪してください」と私はE美さんに伝えた。「その上で、『私には幸せになる価値がある』と自分に言い聞かせてください。「幸せになる」といっても、E美さんにとって何が『幸せな状態』なのかは本人にしかわかりません。今のE美さんに必要なのは、婚活よりも自分と対話することです」と。

そんな話をした直後に、E美さんは入院することになった。子宮ガン検診で初期のガンが見つかり、切除手術を受けることになったのだ。

知らせるつもりはなかったが、海外出張中の彼から「帰ったら会おう」と連絡があったので、初期のガンが見つかったことを伝えたという。すると、帰国したその足でお見舞いに来てくれたそうだ。

普段はお互いにマメに連絡をするわけではないし、会うのも1カ月に1、2回程度。そんな彼が、入院したと聞いてすぐに駆けつけてくれた。

「彼は、私が思っていたよりも私のことを大切に思ってくれているのかもしれない」E美さんはそう感じ、彼への思いにも変化が生まれたという。

病院のベッドで横になっている女性
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婚活の「スタート視点」とは

病院のベッドで、E美さんはこれまでのことを思い出した。

「ブサイクだから勉強をがんばるしかない」「こんな私に幸せな結婚ができるわけがない」そんな風に思い続けてきた自分自身に、初めて心からの「ごめんね」と言うことができたそうだ。

退院後、久しぶりに会ったE美さんはどこかスッキリした表情をしていた。入院中に「本当はどうしたい?」「私の幸せって何?」と何度も自問したのだという。そして、「やっぱり私は結婚して安心できる家庭を築きたい。人生のパートナーとして、彼と向き合ってみよう」という結論に達したという。

E美さんは、「私は結婚したいと思ってる」と素直な気持ちを彼に伝えた。そして、二人は今ゆっくりと関係を築いている。

婚活を始める前に知っておくべきことは、誰かに自分のことを幸せにしてもらうためにするのではないということ。自分で自分の価値を認め、「自分が本当に欲しいもの」を知ることこそが婚活のスタートだ。