ともかく性格がわるい人
30代会社員の方からのご相談です――当社にも、日頃から言動に(パワハラを含む)問題のある社員がいます。パワハラのひどい人には「パワハラ以外の非常識な振る舞い」も目立ち、「その言動はパワハラにあたる」といった説明をしても、不適切な行いはなくなりません。どうするのが効果的なのでしょうか。
相談者の方のお話はよく理解できます。パワハラ行為者には、何のクセもない人にパワハラ癖だけがくっついているケースは少なく、いくつものクセを持ち、周囲から「ともかく性格がわるい」と思われている人が多いからです(少なくとも私がカウンセリングをしてきた人たちはそうです)。
英語ではラック・オブ・キャラクター(Lack of Character)という表現があります。
「良識が欠如している」(=道徳的でなかったり、不誠実だったり、品性や人に対する思いやりに欠ける)という意味を表します。
パワハラの行為者には、こうした性質の人、あるいはスイッチが入るとその状態になる人が多く、同時に他人の不幸を喜ぶタイプの人が多いのです。

人を貶めて喜びを感じる人たち
彼らは人を貶めて喜びを感じる人たちで、職場では、たとえば下請けのような立場の取引先にムリを押し付け、その従業員たちが困る様子を見て快楽を感じます。
わざと難しい要望を出して、「どうやって返事してくるかな」「○○と言ってきたら、○○と言ってやろうか」などと、身内で話します。
理不尽といえる要求に、相手方が困惑しながらも何とか応えようとし、「ご指定の期日は過ぎてしまいますが、来週中には何とか……」と、申し訳なさそうに話すのを聞いてドーパミンを分泌させるのです。
下請けに嫌がらせをした後には、何十年も一緒に働く同僚が入院して、明日どうなるかわからない状況について、大声で実に楽しそうに話したり……。彼らの日常はそんな調子です。
実際にこうしたシーンを見ると、大げさではなく、地獄という場所には、きっとこんな人たちが住んでいるのだろうと思えてしまいます。
(ちなみに「地獄」というのは、パワハラ被害で困りきった人たちが頻繁に口にするキーワードです。)
パワハラ行為者はパワハラ以外にも問題が…
相談者のご指摘の通り、彼らがすることには、パワハラだけではなく、良識の欠如が原因と思われる、さまざまな非常識な行為があります。
私がパワハラがあると相談を受けたときには、パワハラだけが問題ですか、他の問題もありますかと尋ねます。「その人の問題はパワハラをすることだけですか」とは、最初に聞くことなのです。
相談を持ち掛けてくださる担当者から聞くだけでは、答えがはっきりしないこともあり、パワハラの被害者以外の従業員たちからも聞き取りをすることがあります。それにより、どんな問題があるかを詳しく把握できるからです。
つまり、私はパワハラ行為者のカウンセラーとしてカウンセリングをしますが、パワハラ行為者のする良からぬ行為が、必ずしもパワハラだけでないことは承知しています。
パワハラ行為者の問題行動がパワハラだけというのは、むしろめずらしいのです。

パワハラはしないが「良識が欠如している」ケース
一方で、パワハラはしないが「良識が欠如している」というケースも多いものです。
その人たちは周囲に、「性格がわるい」あるいは「変わっている」と認識されています。
彼らも周囲の人を苦しめますが、彼らの振る舞いや言動は、パワハラ行為のように問題として取り上げられにくく、それ故に制限されにくい面があります。
また、同僚にとっては、ただの良識が欠如した人による行いでも、同じことを年下の部下にしたらパワハラになる。そう思える事例も多いものです。
これは私が会社勤務をしていた頃の話です。
夜9時40分、とっくに帰宅している私に同僚でプロジェクトのリーダーをしているA氏から電話がありました。そして、明日の朝9時半までに、ある資料がほしいと言います。
私はA氏に、そんなことを求められても困ると言える立場にあり、まさにそのように本人に伝え、A氏からは翌朝に詫びを入れられましたから、そのことは忘れることができました。
しかし、もしA氏が連絡したのがもっと若い社員だったら、同じようにはならなかったでしょう。
人が困ることをわざとやる
A氏は、人を困らせる行為を平気でする人でした。
別の日には、同氏が、顧客とアポイントを設定していました。
その顧客の事務所へ朝10時に訪問、ついては現地にて集合とのことで、私は自宅から直行しました。
すると、A氏より10時5分前に電話があり、まだ事務所を出ていないとのこと。ついては自分が到着するまで話をしておいてほしいと言うのですが、もともと私は打合せの内容の詳細を知らないため、まともに話をすることができません。
これも私にとっては、A氏の良識の欠如による非常識な振る舞いですが、同じことが部下にされればパワハラとなり得るでしょう。
A氏はこれを(いわゆる)天然でやっているのではなく、人が困ると知りながらしているのです。
A氏はもっと早くから自分が間に合わないことはわかっていた、あるいは、はじめから間に合うつもりがなかったのですが、誰かが到着していれば、プロジェクトのチームとしては遅刻していないことにできると考え、時間ギリギリになって、私がその客先に着いた頃に連絡してきたのです。

パワハラだけではない問題
これらのことをA氏が部下に対して行い、パワハラと受け取られたとします。そこで、もしA氏のパワハラ行為だけを問題と捉えてカウンセリングをすると、相談者の方が困っておられる通りになってしまうでしょう。
部下にはA氏の行為がパワハラと見なされましたが、それ以前にA氏には「良識の欠如(ラック・オブ・キャラクター/Lack of Character)」があり、それがパワハラだけでない他の問題も引き起こしているからです。
パワハラだと訴える部下が被害を受けているだけでなく、私のような同僚も、日頃から災難に遭っているのです。
パワハラ行為者に会ったときに、こうした点を見通すのは、カウンセラーとして十分に気をつけ、配慮していることです。
人間関係を改善するためにできることを
パワハラ行為者へのカウンセリングでは、この人と「一緒に働きたい人がいない(あるいは少ない)のはなぜか」という視点で、パワハラ以外のクセもあるのではと探りながら話をしていきます。
たとえば、上記のA氏のような例を聞いたときには、その行為について、被害者からも(必要に応じて関係者からも)聞き取りを行った上で、「なぜそのような言動をするのか」「一緒に働く人がどんな気持ちになるか認識しているのか」といったことを本人に尋ねていきます。
カウンセリングでは、(パワハラ行為だけが問題の場合でも、そうでない場合でも)まず本人に「一緒に働く人を苦しめて、職場の人間関係を困難にしていること」をあらためて認識してもらい、「人間関係を改善するためにできること」を共に探っていきます。
そうすると、おのずとパワハラ行為を止めるべきことは自覚してもらうことができ、(良識の欠如が原因と考えられる)自己の非常識な言動にも向き合う気になってもらえます。
そういった段階になると、本人の抱える問題を共に特定・整理し、パワハラを含む非常識な言動を抑制するための技術的な指導に入っていくことができるのです。
「こういう物の言い方をするとパワハラに該当するので気をつけましょう」という手合いの研修等とは、かなり異なることがおわかりいただけると思います。
相談者のご指摘の通り、パワハラ行為者には、パワハラ癖だけでなく、他の問題(改善すべき点)もあることが多いものです。
パワハラ行為者への改善指導は、パワハラ行為に焦点を当てるだけでなく、より広い視点で問題を洗い出し、進めていくべきでしょう。