※本稿は、『人生が変わる 片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
夫は「嫌なやつ」…期待したら腹が立つから諦めていた
私が片づけのサポートをする女性に聞く悩みのなかでも多いのが夫に関すること。自分のモノを自分で片づけない、代わりに片づけようとしたら怒る、そもそも話を聞かずに自室にこもってしまうのでコミュニケーションすら不可能など……さまざまです。
が、そこで心機一転、とにかく本人が片づけをスタートし、部屋が片づいていく中で夫婦関係も改善するケースは少なくありません。
今回は、家の片づけと夫との関係に悩んでいた2人のケースを紹介します。
「夫は仕事、私は家事・育児、それぞれが淡々と役割をこなしていて。会話が少なくても生活が回っていました。夫は口数が少なく自室にこもりがちでした」
そう語るのは42歳の専業主婦、ななさん。夫と子ども2人の4人暮らしだ。ななさんは、夫婦関係も家の片づけも突破口を見つけたいと思っていました。
夫は自分からは家庭に関わらないタイプ。
「私が大きなモノを移動したり、あちこち片づけていても、スーッと無言で横を通りすぎていくんです。家事は私の担当だけど……。嫌なヤツ、と思っていました。頼みごとをすると、興味のあることはやるけど、ないことは数年後。期待したら腹が立つから諦めていました」
夫婦の役割意識は、日々をスムーズに回す一方で、心の距離を生む原因に。
家の片づけはトライ&エラーの連続で、モノを減らそうと頑張るけれど、リバウンドのくり返し。夫も片づけが苦手で、モノをため込む癖がありました。
「たとえば衣類なら、向こうが見えるくらい透けた肌着でも、穴の開いた靴下でも捨てようとすると怒るんです。夫のモノは触れませんでした」
思い切って家をまるごと片付けた結果
片づけ問題で、2人の間にはますます溝ができていました。ななさんは家の中の不満をそのままにしている自分にも潜在的な罪悪感がありました。
およそ築40年の家の2階はリフォームせず昔のまま、愛着がなく活用の仕方もわからない。キッチンはL字形なのに、なぜ食材を切るスペースがこんなに狭いのか。さらに夫のモノはいろんな部屋にある。
片づけられない理由を環境や家族のせいにしている自分はもっと嫌になり、思い切って家をまるごと片づけることにしました。
夫の態度が変わって驚いた
部屋がスッキリしない理由は、とにかく不要なモノが多いこと。収納はギチギチでストック品も多く、使うモノをしまう場所もなかった。そこで、まずは不用品を徹底的に減らしました。
「同じ引き出しでも数日前は必要だったモノが今日はいらなくなったりするんです。本当に不思議です」
同時にやったことは、夫と子どもに「私はこうしたいんだけど、どう思う?」と意見を聞くこと。
「今まで自分だけで勝手にやっていたと気づいて。子どもは自分で決めたことならやってくれるし、夫も自分からは動かないけれど、『何日ならやってくれる?』とアポを取ると動いてくれるとわかりました。これまで、そこをすっ飛ばしていたんですね」
驚いたことに夫の態度も変わりました。
古くなった衣類を処分しはじめたり、モノを運んでいると夫が「持とうか?」と持ってくれたり。また、何年か先だろうと諦め半分に頼んだ大工仕事は、仕事から帰るとすぐにやってくれました。
片づけで会話が増えると、夫が自室にこもる理由が判明します。夫はリビングでゴロゴロしたいのに、ソファが硬いので居心地が悪かったそう。近々、このソファも買い替える予定だとか。
ななさんがファシリテーター役に徹し、家族それぞれがこうありたいと思う部屋を見据えたことで、みんなの気持ちが未来の家に向きました。ななさんは家族のベクトルを見事に合わせたのです。
「片づけが終わった今、夫とは深い話もできるようになりました。学びたいことがあるので相談したら『僕も好きなことさせてもらったし、やってみたら?』と背中を押してくれたんです。ホント、そこまで嫌なヤツじゃなかったんですよね(笑)」
ななさんが片づけをしたらご主人に変化が起きたのはよかったですね。ななさん自身もご主人に対する見え方が変わり、いいところに気づいたのも大きいのではないでしょうか。たとえ家族であっても、他人は簡単には変わりません。一つだけ変えられる可能性があるとしたら、まず自分が変わることです。
「夫がまったく片づけられない人だった」
美樹さんは、夫と5歳・1歳の男の子の4人暮らし。結婚を機に引っ越したときから、まわりの環境も自分の生活も一変しました。
見知らぬ土地で友人もおらず、義実家の自営業を手伝う生活が始まります。早く慣れようと必死だった美樹さんに、衝撃的な事実が判明します。
「夫がまったく片づけられない人だったんです」
美樹さんの夫は結婚前に一軒家を購入して、実家で暮らしながらその家にも自分の荷物を置いていました。2人が生活し始めたときには、一軒家の中はすでにモノでいっぱい。引っ越しのときだけの一時的な状態かと思っていましたが、夫は一向に片づける気配がありません。
「目の前にモノがないと、不安になっちゃうみたいで。夫のモノじゃなくて私のモノでも、捨てると『なんで捨てるんだ』と怒るんです」
家の片づけが原因で言い争いをしたことは、一度や二度ではありません。片づけの問題は、常に夫婦関係の悩みでもありました。
「夫は何回も買い物に行くことを時間のムダだと考えて、ティッシュなどを箱買いするのでストックが山積み。でも、空きボトルとか明らかにいらないモノも捨てないんです」
子どもが生まれてからは子どものモノも増えて、美樹さん1人では管理できなくなってしまい、さらに散らかるように。
「このままじゃ家がパンクしちゃう」と美樹さんは危機感を覚え、生活の基盤を整えるために片づけ始めました。
夫に片づけについて相談すると、一言「興味ない」とバッサリ。美樹さんは、自分と子どものモノを減らして片づけることに集中しました。
「あえて言葉には出さない」方法でアピール
美樹さんは、モノを使う人がどんな気持ちで使うのか、どうしたら使いやすいと感じるのか、家族の行動を観察して定位置を決めることにしました。
「片づけってモノを捨てるだけじゃなくて、生活しやすいように整えること。夫にも“あなたのことを見て気づかっていますよ”ということが伝わるといいなと思って」
あえて“片づけ”というワードを使わず、夫の動線上によく使うモノを配置することにしました。
例えば、お酒とおつまみを置く場所を近づけたり、仕事をする場所にゴミ箱を置いたり。脱ぎっぱなしだったパジャマを入れるカゴを用意すると、そこにちゃんと入れてくれるように。
片づけでモノを手放すと、夫の「なんで捨てるの」という声が何度も頭の中に聞こえてきそうになったと言います。でも最後まで片づけられたのは、「私が決めたからやるんだ」という美樹さんの強い気持ちがあったから。
美樹さんが変わることで、夫にも大きな変化がありました。仕事の繁忙期が終わる頃に、自分のモノを片づけることを約束してくれたのです。
「本当は『自分だけ片づけても変わるのかな』っていう不安もありました。でも、想像以上に変われました!」
勇気を出して、まず一歩を踏み出した美樹さんの行動が夫の意識も変えたのです。
家族だからわかり合えて当然、というのは幻想です。相手の気持ちを考えて自分が行動すること、相手の行動の裏にある気持ちを察すること。やってみると絆が深まりますよ。
夫婦関係が悪化する意外な理由
「部屋が片づいたら、夫婦関係が良くなりました」
片づけを終えられた受講生からこんな嬉しい声をよく聞きます。
私は片づけってコミュニケーションそのものだと思っています。まずは、自分の心とのコミュニケーション。「これはあなたにとって本当に必要なモノ?」「将来にも持っていきたいモノ?」と自分自身に問いかけ、モノの選別をする。
次に家族とのコミュニケーション。家族と話し合いをしながらモノの選別や置き場所を決めていく。この作業をやっていくうちに、自分や家族の本音が自然とわかるようになり、片づけ以外の問題にも向き合えるようになるのです。
家が片づかないときは、モノと一緒に感情もため込んでしまうことがあります。
離婚前の私がまさにそうでした。それまでは家事は好きだったし、片づけのやり方も知っていたのですが、そのときはまったく片づけられなくなりました。将来に対する不安が大きかったので、モノをため込むことで安心感を得ていたのかもしれません。
今、夫婦仲があまり良くないな、という人でも家を片づける中で夫との会話が増え、話し合いの中で関係が修復されていくかもしれません。一方、私がそうだったように一緒にいない方がお互いにいい生活ができると確信して、離婚を選択する方もいるかもしれません。
大切なのは、お互いが本心を隠さず、本当に望む未来を話すことだと思います。とはいえ、一方的に本音をぶつけてしまうとうまくいくどころか、余計にこじれたりしてしまいます。
片づけをやりながら夫とうまくコミュニケーションをとる上でぜひ知っておいていただきたいことを紹介します。
その声かけが「負のサイクル」を生んでいく
・あなたにはゴミに見えるものでも相手にとっては宝物
夫の「ため込み癖」や「意味のわからないコレクション」に悩む方は多いです。片づけを始めるとそれらが目に余り、夫に断りなくドンドン捨てて大ゲンカになってしまった、という方が時々います。
片づけはまずは自分のテリトリーから始めて、相手のモノには手をつけないのが鉄則です。
お互い何も言わなくても、行動をしていれば「なんか最近片づけているな」ということは伝わります。夫の所有物の「手放す」「残す」は夫自身に決めてもらうことが大切です。
・協力してくれたらいつもの「100倍」の感謝を伝える
「100倍とは大げさな!」という声が聞こえてきそうですが、コミュニケーション不全に陥っている夫婦ではそれぐらいの気持ちでいないと「ありがとう」の言葉ひとつが出てこないんです。
「ありがとう」と感謝を伝えることはコミュニケーションの入り口です。仕事相手やママ友にはよく言うのに、なぜか夫や子どもにはあまり言っていなかったわ、とおっしゃる方がいます。「今さら恥ずかしい」という方もいます。
まずはゴミを捨ててくれた、自分が食べたお皿をシンクまで運んだ、など些細なことから感謝の言葉を伝えてみましょう。「○○やって!」と言うより何倍も相手を動かす力があることを実感できると思いますよ。
・期待でなく希望をつたえる
コミュニケーションにおいて、相手に怒りや不満を感じるのは、相手に対する期待があるからです。期待があるからその結果を得られないと「裏切られた」という気持ちになり、怒りが湧くんですよね。
例えば、「○日までにここを片づけて」と夫に伝えた場合、それは妻の気持ちを一方的に夫に押しつけていることになり、夫側に「やらない」という選択肢はありません。夫は自分の気持ちを蔑ろにされていると感じ、やりたくなくなる。やらないと妻の怒りは爆発する、という負のサイクルになります。
しかし、「○日までにここを片づけてもらえると嬉しいけど、あなたはどうする?」と「希望」で伝えれば、相手に対する要求は低くなり、それをやるか、やらないかの選択は相手にあることになります。やらなかったとしても、「希望していただけなんだから仕方ない」と思うこともできます。
少しの違いですが、この考えを頭の片隅においておくだけで、ストレスがグンと減ります。
そもそも相手に対する「期待」はその通りに実現することの方が稀です。コミュニケーションをとる上で一番いけないのは、相手に期待しすぎることです。
片づけはコミュニケーション
相手に期待せず自分から動く