社会的に成功していて高収入で、完璧に見えるのに、部屋がとんでもなく散らかっている人は少なくないそうです。お片づけ習慣化コンサルタントの西崎彩智さんは「掃除が嫌い・苦手だと感じるタイプに多いのは、意外にも完璧主義な人。自分自身に対する評価も厳しく、100%きれいな状態以外はダメだと思ってしまっているため、自分は掃除ができない、苦手と思い込んでしまっているのです」といいます――。

※本稿は、『人生が変わる 片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

乱雑な部屋
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社内で表彰も! 完璧に見えるトップ営業の素顔

片づけられないと悩む人にとって、家にいる時間は常にその悩みを眼前に突き付けられているようなものです。

散らかったリビング、料理をするスペースもないキッチン……。どこに行っても、片づけられない自分がそこにいます。そのような人の多くは、どこかで自分を変えてコンプレックスを解消したいと思っています。

夫と子ども2人と暮らすキャリア女性のリーナさん(44)も、子どもの頃から片づけへの苦手意識がありました。

「子どもの頃、母親が私のぐちゃぐちゃな机の中身を全部出して『片づけなさい!』と怒ったことがありました。どうしていいかわからずに泣きながら元に戻していたのを覚えています」

現在、トップクラスの成績で社内表彰もされる営業としてバリバリ働くリーナさん。

「私、人からはよく『家がきれいそう』と言われるんです。そのたびに、本当の自分を隠しているような気持ちになり、自分は不完全な人間だなぁって思っていました」

「みんなが集まる家を心地よい場所にしたい」と思い、リーナさんは苦手な片づけと向き合うことにしました。

仕事で成功しても「快適」じゃなかった

片づけを始めると、「なぜ今まで気づかなかったんだろう?」ということの連続でした。娘の希望を聞いて、学習机を移動すると、今までリビングに置きっぱなしにしていたランドセルをきちんと片づけるようになりました。リビングでやっていた宿題もきちんと自分の机でするなど、生活習慣が一変。

同じように、自分たちの暮らしやすさを考えながらモノの定位置を決めていくと、あるべき場所が自然とわかってきました。さらに、今の生活に必要なモノかどうかの判断がすぐにできるようになり、家から出た不用品はゴミ袋にしてなんと50袋にも。

「以前、母が片づけてくれたことがあり、しっくりこなくてすぐ散らかってしまいました。自分で考えながら片づけたら、こんなにも暮らしやすいのかとビックリ!」

きれいになった家の中は、思い描いていた“家族の心地よい場所”へと生まれ変わりました。モノの定位置が決まっているので戻しやすく、一日の終わりにはすぐリセットできます。“片づけられない自分”の影はどこにもありません。

どんなに仕事で成功しても、家が心地よくないと人生が心地よくないと感じたリーナさん。片づけることによって、自分の人生も、家族の人生も変えることができました。

リーナさんのように仕事がものすごくできて「家がきれいそう」などと人からは言われるけれど、実際には家の中がぐちゃぐちゃ……という人は少なくありません。

仕事ができる人には「完璧主義」の人も多いからかもしれません。もう一名の片づけ事例も紹介します。

仕事以上の「緊急性」を感じられなかった

海外出張もある仕事に就いているちさとさん(40)は、息子と2人暮らし。忙しいながらも楽しい毎日で、キャリアを確実に積み上げ、今は管理職としてのやりがいも感じて仕事面は充実しています。

でも、昔から片づけは苦手。仕事以上の緊急性も感じず、家の中にモノが散乱していてもすぐに片づけをやろうという気持ちにはなれませんでした。

「当時の私の中で片づけというのは、空いているスペースにモノを押し込むこと。スッキリしているように見えても、モノを出しにくくて元の場所に戻しにくい。すぐに散らかっていました」

離婚を経験し、ふと自分の生活を見直したときに「家が汚い」と自覚しました。

家の中から大量のストック品を発見。小麦粉や乾麺など、食料品の多くは賞味期限が切れています。在庫があるのに気づかず、買ってきてはため込むという癖がわかりました。

モノの場所を把握できているつもりだったのに、結局はできていなかった。モノが多すぎて管理できなくなっているので、まずは家の中のモノを徹底的に減らしました。

冷蔵庫やパントリーからあふれ出ていたモノを減らし、吟味を重ねた食器棚を入れて整理すると、料理のしやすさが格段にアップしました。以前は45分くらいかかっていた夕飯の準備が30分以内になり、フードロスもなし。ストックを買い込むこともなく、食費が減りました。

ダメな自分に直面したくなかった

以前はダメな自分に直面しているようで一刻も早く散らかったキッチンから出たかったけれど、今ではキッチンにいることが楽しく感じられます。

奮闘している母の姿を見て、息子にも変化が訪れます。

今まで学校から帰ってきたら置きっぱなしだったカバンを定位置に、脱ぎっぱなしの制服はきちんとハンガーにかけるようになりました。今は居心地のよい自分の部屋を作ろうと、ちさとさんと一緒に計画をしています。

母親だからと、すべて1人でやろうとすることはありません。すぐ近くには、お互いに助け合える家族がいます。そのことに気づけるきっかけの一つが、ちさとさんにとって家の片づけでした。

なぜ「完璧主義」な人は片づけが苦手なのか?

掃除が嫌い・苦手だと感じるタイプに多いのは、意外にも完璧主義な人です。完璧主義な人は物事を0か100かで捉える傾向があります。

オフィスで働く若いビジネスウーマン
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自分自身に対する評価も厳しく、100%きれいな状態以外はダメだと思ってしまっているため、自分は掃除が「できない」「苦手」と思い込んでしまっているのです。

そのほかにも、こんな「完璧主義」の方たちがいます。

・自分以外のことに一生懸命

真面目で完璧主義な人は、自分よりも他人を優先し、何事も一生懸命な人が多いようです。子育てや仕事、人付き合いに頑張って、自分のことは後回し。毎日目の前のことをこなすだけで精一杯で、自分が心地いい空間づくりまで頭が回らない。

・ずっと正解探しをしている

完璧を求めるあまりいつも「これでいいのかな」と考えてしまう。失敗することは許せない、と思っている人も多いようです。片づけも、「この方法でいいのかな」「もっと効率のいい片づけがあるのではないか」と考えることに時間を費やしてしまい、一歩が踏み出せない。

・ダメな自分をさらけ出せない

片づけられないキャリア女性に多いのがこのタイプ。外ではバリバリ働いているけれど、家の中は散らかっている。どうにかしたいと思っているけれど、ダメな自分は見せられない。他人からの評価が気になり、鎧を着ているように生きている。

こんな「完璧主義」の方たちにお伝えしているのは、「完璧主義ではなく、完了主義になりましょう」ということです。

完璧な状態を求めるのではなく、「今はとりあえずこれがベスト」と思ってやり始め、小さくてもいいので、一つひとつしっかり「完了」させていくのです。

私が開催している片づけの講座では部屋の現状を写真に撮ります。部屋だけでなく、書類入れ、食器棚、クローゼットの中などもです。最初は「恥ずかしい」と抵抗する人もいますが、みんなで共有し合うと「みんなもそうなんだ」とだんだん今まで着ていた鎧が外れて、完璧ではない「本当の自分」が出せるようになるんですね。

「痛み」が自分を変えるモチベーションに

このように、自分のダメな部分をさらけ出して「痛み」を感じることは自分が変わるモチベーションとしては強いです。意図的ではなくても、こんな「痛み」が片づけのきっかけになったとおっしゃる方がいます。

・子どもが急に友だちを連れてきたとき、「汚い家だな」と言われてしまった
・家族が事故にあって急にお姑さんがきて、汚部屋がバレてしまった
・息子が結婚することになったが「こんな汚い家じゃ彼女を呼べない」と言われてしまった

そもそも完璧主義の人は、自分に期待しすぎている傾向があります。

自分では気づいていないかもしれませんが、「私は失敗できない」「みんなから認められたい」とどこかで思っているんです。

でも実際は、理想の自分と現実の自分に乖離があって、モヤモヤしてしまう。だったら最初から自分に期待しないほうがいい。自分から積極的に「痛み」をさらけ出してしまったほうがいい。

西崎彩智『人生が変わる 片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター』(朝日新聞出版)
西崎彩智『人生が変わる 片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター』(朝日新聞出版)

私は、もしかしたら周りから完璧主義と思われているかもしれませんが、そもそも自分には期待していません。小さい頃から何事も遅くて怒られることが多かったし、夏休みの宿題は終わったことがなかったし、中学3年生は3分の1ぐらい学校に行っていないんです。

転機となったのは高校です。最初はあまり行きたくない高校でしたが、そこですごく自分を認めて、ほめてくれる先生に出会い、自信がつき、行動できるようになりました。人間、ある程度の痛みは大事ですが、痛みが大きすぎると行動できなくなります。

自分に期待しない。あまり痛みが大きくならないうちに行動し、応援してくれる人を周りに置く。

それが、完璧主義さんが変わる秘訣かと思います。

POINT

「完璧」なんてどこにもない
毎日少しずつ「完了」させていこう