営業において、「聞く」と「話す」ではどちらが大切なのか。かつてリクルートで活躍した竹内孝太朗さんは「“聞くが8割、話すが2割”などとも言われるが、このノウハウが当てはまらない商品も存在する。自分から10割話をすることが必要になるケースもあるので、最適解を見つける必要がある」という――。

※本稿は、竹内孝太朗『営業スキル検定』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

ヒアリングだけでは顧客は困ってしまう

よく聞くのが、流暢な営業トークで顧客を口説き落とすのではなく、顧客によくしゃべっていただいて、そこから顧客のニーズを聞き出すというノウハウです。

例えば「聞くが8割、話すが2割」「一言もしゃべらないのが理想の営業」といった内容が書かれている本があります。

しかし、このノウハウが当てはまらない商品も存在するのです。

例えば弊社商品でも新規領域・新規コンセプトの商品があります。

私自身、営業としてそのような商品を複数扱ってきたからこそ言えるのですが、そのような新規領域・新規コンセプトの商品を売るときに、そもそもニーズを聞き出そうとしても、信頼関係もなく、何者かもわからない人間から、意図も目的も明かされず一方的にヒアリングされては、顧客は困ってしまうのです。

少なくとも、何を目的にこの商談の時間をいただいているのか、素性を先に明かす必要があります。

握手するビジネスパーソン
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自分から10割話をすることが必要

知名度もあり、顧客からの信頼が積み上げられている大企業で営業として働いている、もしくは、顧客と個人的なつながりがあるといった場合には、「あなたの意見を聞かせてください」と商談で言えば、何らかの答えをもらえるかもしれません。

しかし信頼関係の築かれていない段階でそんなことをお願いしても、「何で、君に話さないといけないの?」と思われてしまうのがオチです。

「このことであればあの会社に相談する」とか、「誰々に相談する」といった合意形成がすでになされていて、初めてヒアリングができるわけです。またそうやってヒアリングができて初めて、顧客のニーズも聞くことができるわけです。

しかし新たな領域にアプローチしている会社であれば、「そもそもあなたは何者ですか?」「あなたの会社、聞いたことがないんですけど」といったフェーズから営業することが多いでしょう。

このフェーズでは、自分から10割話をすることが必要になります。自分という営業についての説明や、自社および提案する商品の価値を流暢、かつ端的に説明することが肝心な場合もあるのです。

つまり自社に対する信頼が、狙っている市場ではまだ形成されていなかったり、自分という営業への信頼がまだ得られていなかったりする段階では、「聞くこと」よりも「こちらからたくさんの情報をアウトプットすること」が必要になるわけです。

まずはしっかりとした説明を

「人間関係を作るには信頼を勝ち取ることが必要だ、そのために聞くことが重要だ」と思っている方も多いかもしれません。

しかし、そもそも顧客からしたら、個人である営業を信頼するかどうかなんて、実はあまり重要ではありません。それよりも「こんなプロダクトが作れる会社なんだな」「こんな貢献を世の中に対してしていきたい会社なんだな」といったことを顧客に知ってもらうことのほうがよほど重要です。

ですから、まずそれらをしっかり説明するほうが求められることもあるのです。

このように「話すべきか、聞くべきか」といったこと1つを取ってみても、正解などないのです。

近くの男の子にメガホンを使って喋る男の子
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「営業レベル」によって比率は変わる

弊社では、「商品提案パートに入っても商談相手4:自身6の割合で会話できる」ことを推奨しています。

この「4:6」という比率に関しては、様々な意見があると思います。

先ほどお伝えしたように、よく言われる「聞き上手な営業が売れる営業だ」は私に言わせると、ニーズの顕在化度合いを無視した考え方です。

この「商品提案パートに入っても商談相手4:自身6の割合で会話できる」というスキルの詳細は、「簡潔に商品説明・解決手法提示をしながら商談相手へのヒアリングを継続し、常に商談相手がしゃべる時間を確保することができる」です。

ここで簡単に説明させていただきますが、弊社では、私が作成した「営業スキル検定」というものを取り入れています。

・営業レベル0:ニーズに自覚的で購買行動を開始している顧客との折衝
・営業レベル1:ニーズに自覚的だが購買行動を開始していない顧客との折衝
・営業レベル2:潜在的なニーズに自覚的でない顧客との折衝
・営業レベル3:潜在的にもニーズが存在しない顧客との折衝

このように、営業レベル0~3まで4段階に分かれており、その中でさらに具体的な「42のスキル」によって構成しています。

この「営業スキル検定」に沿って考えると、ニーズが顕在化していて、営業レベル1で対応できる顧客であれば、商談内での会話の割合は、それこそ「商談相手0:自身10」でもよいと思うぐらいです。

「商談相手4:自身6」という比率

ですが、営業レベル2の「潜在的なニーズに自覚的でない顧客との折衝」に対する場合では、商談の前半はヒアリングパートとなりますので、他社事例を添えつつ質問する時間以外は、多くの時間で顧客が話している状態が続くのが理想的です。

営業レベル2の商談前半でやっと顧客がニーズに自覚的になった直後に、営業が怒涛の商品説明を開始すると、前半からのギャップが大きすぎて、苦痛に感じるケースもあります。

もちろん、ニーズが明確になっていればいるほど、営業が一方的に話してよい状況となりますが、営業レベル2が必要なケースでは慎重に進めるべきだと考えます。

ヒアリングした段階での仮説ベースの真因をアウトプットし、その真因を認めてもらうという段階を踏み、その後も顧客に目標・現状・課題や真因について反芻していただいたり、それぞれをより具体的にする発言をしてもらいながら、商談を進める必要があるのです。

したがって弊社では、顧客に4割ぐらいは話してもらおうと決めているのですが、これも貴社で検証しながら割合を決めてもらいたいと思っています。商品によっては商談中、営業が10割話してもよいということもあり得るかもしれません。

スキル詳細で「簡潔に」とあるのは、商談相手がしゃべれない時間を短くしたいからです。

営業レベル2では、解決方法を提示しながらも、商談相手からのヒアリングを継続していきます。

評価基準は、「商品提案パートに入っても、話す時間のシェアとして商談相手4:自身6以上に商談相手が話す状態を実現できているかどうか」としています。この「4:6」という比率は繰り返しになりますが、貴社で検証しながら決めていってください。

机の上の赤いパーセンテージ記号
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ロープレを繰り返してトークスキルを高める

トレーニング方法は、「自身のロープレを録音し、文字起こしし、提案中に意味のあるヒアリングを挿入できる箇所を特定する。質問をすでにしている箇所は特定質問を拡大質問に変更し、文脈を変えずに商談相手の発言量を増やせないか考える。考えた内容をロープレで録音し確認する」となります。

この内容に基づいてロープレを繰り返すことが肝心です。

ロープレを録音し、文字起こししたものを見ながら、商談相手の発言量を増やすために何ができるかを考えることが重要になります。

商談相手の発言量を増やす

「提案中に意味のあるヒアリングを挿入できる箇所を特定する」とありますが、「意味のある」というのは、例えば真因をより細分化して優先順位設定を可能にしたり、解決策の具体性を増すことに貢献する、といった定義になります。

竹内孝太朗『営業スキル検定』(かんき出版)
竹内孝太朗『営業スキル検定』(かんき出版)

提案しているときに、例えば「このような人たちにはいいと思うのですが、このような人たちにはどうでしょうか」といった質問を入れられるような箇所を探すということです。

弊社で言えば、「例えば1日30分学習してくださいと言うと、成績上位の生徒さんはおそらく実行すると思うのですが、成績下位の生徒さんはどうでしょうか」といったヒアリングを適宜挟むようにしています。

また「質問をすでにしている箇所は特定質問を拡大質問に変更し」とあります。

これは、例えば「生徒さんの成績を上げたいですよね」といった特定質問をして、

Yesと言われていたとしたら、「どんなやり方で上げていくか」「どのぐらい上げたいと思うのか」といった拡大質問をすることで、商談相手の発言量を増やしていくということです。

以上の弊社の実践例をご参考に、ぜひみなさんも「聞く」と「話す」の最適な比率を探してみてください。