※本稿は、舩渡川智之『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)の一部を再編集したものです。
子どもに心配なことがある場合はすぐに専門家に相談を
抑うつや不安の症状があっても、誰に相談したらよいのかわからず受診を先のばしする方も多いようです。ほうっておくと悪化してしまうので、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
子どもに心配なことがあるとき、親御さんにとっていちばん相談しやすいのは学校かもしれません。まず担任や養護教諭に相談し、必要に応じてスクールカウンセラーにつないでもらうとよいでしょう。家と学校で連絡を密にし、連携して見守る体制を整えます。
学校や担任の先生との関係がうまくいっていない場合は、教育委員会に対応をしてもらいます。それでも解決されず、いよいよ心の問題かもと思ったときには、市区町村、地域の保健所や精神保健福祉センターで設けられている「精神保健相談」等で相談すれば、適切な医療機関を紹介してもらえます。
本人を連れて行けないときには、保険診療外にはなりますが家族だけでも相談できることもあります。
精神科にかかることを躊躇するときは、小児科でもかまいません。かかりつけ小児科があれば、まずその先生に相談してみましょう。かかりつけの先生ならば、本人が相談しやすい可能性があります。
必要なら精神科や心療内科を紹介してくれるでしょう。
子どもの精神疾患や心の問題にくわしい専門医に相談したい場合は「日本児童青年精神医学会認定医」「子どものこころ専門医」で検索することができます。
うつ病単体ならスムーズに回復することも多いが…
外来を受診するお子さんで、抑うつや不安が重症化してうつ病に移行していたり、生活に支障が出るほどうつ病が悪化していたりするケースはそれほど多くありません。それ以前に、摂食症や不安症といった別の病気で発見されるためです。
もちろん、はじめからうつ病と診断される子どももゼロではありません。数は多くありませんが、初診時にすでに重症化しているケースもあります。
このようなうつ病単体で発症していて、ほかの疾患を併発していない場合には、適切な治療を行うことによって比較的スムーズに回復することが多いという印象です。うつ病にほかの病気が重なっていると、治療に時間がかかることがあります。
緊急性が高いときは入院や休学を勧めることも
抑うつや不安で受診したお子さんは、通常は外来で治療を行っていきますが、緊急性が高いと医師が判断すれば、入院や休学を勧めることもあります。
とくに緊急性が高いのは、自殺願望を強くもち、くり返し自傷をしたり自殺未遂を起こしたりしている患者さんです。摂食症が進行して栄養状態が悪化している患者さんも、ほうっておけば命の危険があるので早めの入院を勧めることがあります。
また、しばらく外来で治療を行ってもほとんど効果があらわれなかったり症状が悪化したりする場合や、家で療養していても日常生活に支障が出るような場合にも、「入院して治療してみてはどうですか?」と声をかけることがあります。
うつ病は初期段階の対応が重要
成人期までを念頭に治療するうつ病は、初期の段階で気づいて適切な治療を行えば回復する病気です。思春期に発症したうつ病でも、初期段階が重要なのは同じです。
「ちょっとだるそうだな」「疲れやすいみたい」と思ったら、子どものことを注意深く観察してください。朝、起きられなくなったり、食事がとれなくなったりしたら、うつ病の初期症状も疑われます。早めに専門医を受診しましょう。
うつ病と診断されたら、とにかく休ませてあげることが大事です。この時期に無理をしたり、焦って登校させたりすると、こじらせて長期化してしまいます。小児から青年期のうつ病にはまだ薬物療法の安全性が確立していません。また、認知行動療法も、ある程度言語化能力が発達していないと効果が出ないので、治療では環境調整が優先されます。
子どものうつ病の約10%は慢性化する
児童・青年期のうつ病は1~2年で軽快することが多いものの、再発する可能性も高いとされます。この年代に発病した抑うつ症の予後調査では、93%は完全寛解したものの、53%は再燃(ぶり返し)が認められました。このため、いったん回復してもそれきりにせず、成人期まで念頭においた対応が必要です。
子どものうつ病の約10%は慢性化すると報告されています。慢性化したケースでは、不安症、物質関連症、パーソナリティ症が根底にある可能性も考えられるため、うつ病の治療だけで症状を完全に消失させるのは難しいと見られます。
治療法が本人に合っていれば半年ほどで回復の兆しが見られますが、回復後、元の生活に戻る際には要注意。数カ月のブランクでも、同級生の輪に戻るのは大変です。また、授業についていくのが困難になるからです。遅れをとり戻そうとがんばって再発することもあります。思ったように成績が上がらないと、ますます自己肯定感が下がります。
もちろん、そうしたハンディを乗り越えていく子もたくさんいますが、回復後も思春期特有の問題があることは周囲も認識しておきましょう。
子どもの場合は薬物療法が第一ではない
大人のうつ病の場合、休息と薬物療法が中心ですが、児童・青年期のうつ病では薬物療法が第一ではありません。
子どもの場合、薬物療法を積極的には行わない臨床試験によると、児童・青年期のうつ病に対する抗うつ薬使用は大人ほど有効ではなく、とくに三環系は有効性が確認されていません。SSRIの有効性は実証されていますが、効果が得られないこともあります。また、小児・思春期では自殺関連行動のリスクが高まるという問題もあります。
いずれの薬剤も子どもの場合、日本では臨床試験で有効性・安全性確認されておらず、保険適用ではないので積極的に用いることはできません。このため児童・青年期のうつ病には原則として、まず精神療法や環境調整、心理療法を行います。この時期のうつ病は、背景要因を探り、解決をはかることで改善することも少なくないのです。
過度の抑うつや精神運動抑制、不眠がある場合には、薬物療法も検討します。重度のうつや自殺の危険があれば入院治療も選択肢となります。
薬物療法を行う場合、小児には不安や焦燥感、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、衝動性、アカシジア(そわそわと動き回る)、軽躁状態、躁状態などが生じやすく、服用後2週間以内はとくに注意が必要です。
薬物療法のリスクを本人や親御さんに説明し、慎重に投与します。
どこもわるくないのに登校できない…
うつ病になると精神運動が抑制されて活動性が著しく低下するので、子どもはどこもわるくないのに登校できなくなることがあります。親御さんはお子さんの変化に戸惑うかもしれませんが、そんなときはお子さんが思春期の只中にいることを思い出してください。
思春期になると、子どもの体は急激に成長し、第二次性徴を迎えます。
心理的には親から離れてアイデンティティを確立しようともがく時期です。親に依存する一方、一個の人間として自立しようと子どもは葛藤しています。同時に自分の能力や外見、強みや弱みに気づき、ありのままの自分を受け入れると同時に自己肯定感も低下しがちです。
体も心も不安定なこの時期には、疲れたときに安心して休息できる場が必要です。とくに、すでに抑うつや不安に悩んだり、うつ病を患ったりしている子どもには、家庭に安息の場を整えてあげてください。
スモールステップを見逃さずにほめる
子どものうつ病への効果が認められている心理療法は、認知行動療法と対人関係療法です。ただし、心理療法にはある程度感情を客観的に認識して言葉にする力が必要なので、実際に行える症例は限られています。
認知行動療法とは、ものごとの受け止め方(認知)と行動に働きかけてストレスを軽減する方法です。対人関係療法は、ストレスの原因となる対人関係上の問題に着目して治療していく方法です。
とはいえ、こうした療法が行える医療機関は多くないので、一般的には環境をアセスメントし、具体的な環境調整の提案が行われています。
それでも改善しなければ、慎重に検討したうえで薬物療法を開始します。
また、自己肯定感が低下しているので、本人なりに努力しているところを探してほめるといった支持的心理療法も行います。「今日は5分散歩ができたね。がんばったね」など、本人なりの進歩を言葉にしてあげます。スモールステップを見逃さずほめることが大切です。
思春期は生活リズムが乱れやすいので、食事や睡眠が不規則にならないように一日、一週間のスケジュールをつくります。また、うつ病になると疲れすぎないように活動量も調整します。
重度のうつ病の場合、急性期には過度な刺激やストレスに注意します。
通学している場合は、学校の環境にも配慮が必要です。大音量や強すぎる光などの刺激は自律神経に大きな負荷をかけてしまいます。
また、授業の内容がわからなかったり間違った回答をしたりしたとき、本人の自己肯定感が下がらないように先生にも配慮してもらいます。
休んだ後の選択肢を柔軟に考える
急性期にしっかり休息をとり、症状が落ち着いてきたら、少しずつ好きなことにエネルギーを使えるようにしていきます。散歩や買い物などで体を慣らし、体力も回復させます。
学校を長期間に休んだ場合、その後の進路は柔軟に決めましょう。いまの時代、人生の選択肢は多様化しています。大人も子どもも「元の学年に戻るしかない」と思い込んでいると、よりよい選択肢が見えなくなってしまいます。一年遅れで進学するのか、通信教育など別の道を行くのか、本人の意志を尊重し、無理のない進路選びをさせてあげましょう。