「おじさん詰め合わせ」ではあるけれど…
9月12日、自民党総裁選が告示され、7月中旬からそれぞれ水面下の動きを続けてきた立候補者がいよいよ出揃った。野田聖子総務相の出馬は叶わず、かろうじて高市早苗経済安全保障担当相(63)と上川陽子外相(71)がリストインしたものの、相変わらずの「おじさん詰め合わせ」(©️トラウデン直美さん)である。
日本の政界における画期となった「(麻生派を除く)派閥解消」後、初の総裁選。これまでの派閥締め付けで既定路線が見え、一定の予測が立てられた出来レースとは異なり、国会議員たちが旧派閥の論理とは別の――例えば同期会の決定であるとか、次の選挙のためにこっちに恩を売っておこうとかの――自由意志をもって動くために変数が多く、エントロピーが増大、つまるところカオス、よって「面白くなった」とマスコミも大喜びし、各社が総裁選特設サイトでお祭り中だ。
今回、派閥の力学が失われたことによって立候補者は乱立、9名の過去最多となった。票読みのしづらい、ひょっとして40代首相誕生もあり得るかと思わせられる総裁選のエンタメ性を盛り上げるべく、自民党公式で立ち上がった「総裁選2024 THE MATCH」サイトのキャッチコピーは「時代は『誰』を求めるか?」。
世論を巻き込まないと決まらない
格闘技試合の広告を模したビジュアルデザインに、「悪ノリだ」「政界が男性中心主義であり続けることへの反省がない」などの批判もあったけれど、そもそも関係者がそこまで深く考えていたとは思えないので、作らされた代理店も巻き込まれ事故である(あくまで自民党部会の思いつきで、代理店発案ではなかったことを祈る)。
(※2024/09/13追記:だがしかし、自民党総裁選2024ホームページったら、告示翌日の9月13日にはすっかり一新、絶妙な配置で9人の候補者を掲げるデザインに更新されていたのだ! アクセルを踏んだ自民党広報部のPR展開が楽しみである。)
そんなキャンペーンを張るのも、総裁選が世論の側へ向かざるを得なくなったため。世論を巻き込まないと決まらない、そういう裏事情がある。
国会議員の票が分散して各候補者間で大差がつかなくなれば、党員・党友票の重要性が上がる。各候補が党内の調整に並行してせっせとテレビ露出に励んでいるのは、世論に近い動きをするといわれる全国の党員・党友に向けたアピールだ。「日本の首相なんて、密室で決まるわけでしょ?」と思われてきたものが、今回そういうわけでもない、ということなのだ。
「どのおじさん/おばさんの首相姿が見たいですか?」
乱戦との言葉も踊る、総裁選2024。投開票は27日、乱立ゆえ推薦人だけで既に票は割れ、過半数を取れる候補はおらず、上位2人による決選投票突入の見込みは濃厚。
さあ、自民党員であってもなくても「世論」が結果にある程度の影響を与えられる、となればここで、われわれも検討するいい機会なので検討しましょう。
私もまごうことなきおばさんなので遠慮なく口にしたいのですが、「あなたはどのおじさん/おばさんの首相姿が見たいですか?」
9月上旬時点での見通し
立候補者の見通しは色々あったが、まだ出揃わない9月上旬時点で、「総裁選どうなると思う?」との問いに私が答えるなら、ぶっちゃけこんな感じであった。
「マスコミはいま進次郎(小泉進次郎元環境相・43)でキャッキャしていますが、党内と党員投票で決まる、公職選挙法ナニソレな総裁選に対して浮かれ世論が与えられる影響など知れており、コバホーク(小林鷹之前経済安全保障担当相・49)含めて祭りの“賑やかし”にはなれど年齢的な驚きは生まず。前回『第100代総裁選に女性を』と鳴物入りで担ぎ出された高市さんは、100代の旬を逃した時点で101代の目が期待できるかというと……となると、『アンダー70歳』の男性で、石破さん(石破茂元幹事長・67)、河野さん(河野太郎デジタル相・61)、うまくするとついに本気出した茂木さん(茂木敏充幹事長・68)で決選投票なのかなと」
若手がどこまで行けるか、という部分で言うなら、自民の政治家たちも自民党員も、43歳のまだまだ経験の薄いイメージ先行イケメンに票を与えるような親切心は本音では持ち合わせておらず、内部若手の篤い支持を得るエリート、コバホークが3〜5年後の将来に向けて爪痕を残し、善戦するくらいじゃないか……と感じていたのだ。
「番狂わせがあるかも」
日本の政界は政策うんぬんよりも政局人事なので、年齢は実に大きな意味をもっている。
日本の保守的な組織では、「採用当時の優秀な人材」が年代別にみっちりミルフィーユになっているため、エリート(と自負する)組織であればあるほどトップの極端な若返りを起こせない圧力がある。70代や80代の長老経営がようやくはばかられるようになってきたこのご時勢では、代表的な経団連企業でも50代前半のリーダーの誕生が「おっ」と注目される程度で、50代後半か60代で順当。自民党で40代総裁や女性総裁というのは、日本の地場感覚にはまだ100万年早く、万が一億が一決まってももって半年、という冷め切った感覚だった。
ところが、派閥から自由になった政治家が「いまこの流れならいける」とみんな考えて乱立、という状況には不確定要素が多く、情勢は日々変わっていく。外野も「この流れなら番狂わせがあるかも」と思わされている。
“能ある鷹”がにわかに爪を見せた
「アンダー70歳」組のおじさんでは誰がいるか、と考えると、それこそが立候補者9人中の最も分厚い層であり、石破氏、河野氏、茂木氏に加えて林芳正官房長官(63)、加藤勝信元官房長官(68)の5人もいる。
実は私の推しは、増税ゼロを打ち出して岸田現総理の方針に時勢に見合った修正をかけようとする、能ある鷹がにわかに爪を出した茂木敏充氏。「外資系企業出身で、自他ともに認める頭脳派」との強面イメージからのキャラ替え中で、実は海外センスゴリゴリの外交政策通であり国際経済畑のエリートでありプラグマティックな合理派であるにもかかわらず、閣僚、党四役中三役を歴任したために黒子として露出発言を抑え気味にし、株式会社ジャパン自民党という組織を上ってきた人だ。どこのメディアに出ても一般の知名度が低い低いと言われ続けて気の毒である(かく言う私自身もテレビ番組でお目にかかるまではまったくノーマークだった)。
しかしその政策をあちこちで説明して回る姿を見るにつけ、イメージだけではしゃべらない、理論的根拠に基づいた政策の話には説得力がある。なぜ「防衛増税や子育て支援金の社会保険料追加負担の停止」を実行し、増税を撤回しながらも政策としては前政権の決定路線を維持したまま財政支出をコントロールできるのか。茂木氏の外交観と経済の話は特に納得感が高く、慎重に言葉を選びながら決して言い過ぎないが信頼を生む語り口には「日本にこんな政治家がいるのに、みんな知らないなんてもったいない」と感じるのだが、いかんせん私が支持してしまう自民党の政治家は世間一般ではあまり……。
何にせよ、今の世の中、「おじさん」というだけでアレルギーの出る人もいるが、しかしながら2024年のおじさんにもいろいろと才能豊かな人がいるのだ、ということは記しておきたい。おじさんの詰め合わせにも、見るべきところはあるのである。
5月に予言されていた「勝ち筋」
しかし、茂木氏の増税ゼロは、今年5月時点に渡瀬裕哉氏(早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員)によるプレジデントオンライン記事(「増税メガネ」から「増税王子」に代わるだけ…刷新感どころか古い自民党に逆戻りする「進次郎候補」の恐怖のシナリオ)で「自民党支持層の本音」としてあぶり出されていた「増税メガネ否定」路線そのものなのである。本音ベースでは「自民党支持層は、実は消費税率維持・引き上げに強いこだわりはなく、むしろ減税を支持していた」との調査結果が出、これが自民党大逆転の秘策となるであろうというのが渡瀬氏の分析であった。
自民の女神は、キングメーカー麻生さんの子に微笑みがちなので、結局はなんだかんだ組織票のあるデジタル河野さんと、旬は逃したがタカ派地盤に支えられる高市さん、70前ラストチャンスの石破さん、勝ち馬に乗りたい浮動票を集めた進次郎、もしかしたら70歳組が抜ける3〜5年先に向けた爪痕を残すコバホーク、なのかなと感じているところではある。
だが、イデオロギーやポーズを抜きにして生活者たる国民から本当に求められている政策を見抜き、時流に合わせて適切に修正を加え、日本の成長を正しく企み、日本のリーダーを目指す戦い方もあるのだ。
「自民の政治といえばイデオロギー、そして人事」という認識をひっくり返して、論拠があり信頼のおけるフェアでサステナブルな政権がそろそろ見たいな、と思うのだが……投開票は27日だ。