数字やデータで聞き手を説得するにはどうすればよいか。コミュニケーション・アナリストの上野陽子さんは「具体的な数字では意外とわかりにくいときには、具体的な数字は忘れても、イメージだけは強く印象に残るよう言い換えるとよい。聞き手がイメージしやすく、わかりやすいデータを引っ張ってくることが大切だ」という――。

※本稿は、上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

イメージがつきにくい数字をわかりやすく伝えるには

今回は、実際に数字を引用して生かし、応用する方法を考えてみましょう。

数字やデータを引用することで曖昧さが回避できて、確かな根拠が示せ、話の信用につながります。ところが、大きすぎる数字は規模がつかみにくく、聞き手にはイメージがつかないなど、やっかいな場合もあります。ここでは、数字をわかりやすく引用するための方法をいくつか見ていきましょう。

紙と電卓を使用するビジネスマン
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知っているもので大きさを見せる

「このリゾート地の広さは、約14ヘクタールです」

たとえば広さを説明するときに、具体的な数字を言われても、どのくらい広いかわからないことが多いですよね。そのため日本人はよく東京ドームを持ち出すわけです。

大切なのは、聞き手がイメージしやすく、わかりやすいデータを引っ張って応用することです。

データ1:東京ドーム(建築面積)は約4万7000平方メートル、4.7ヘクタール
データ2:一辺が約216メートルの正方形
データ3:小学校の25メートル(25×12)プールは0.03ヘクタール

まずは広さのデータを持ってきて、「このリゾート地の広さは約14ヘクタールです」だけではわかりにくいイメージが、さっと浮かぶようにしてみます。

「一辺が216メートルの東京ドームなら約3個分、25メートルプールなら約156個入る広さです」

プールが156個になると、逆に数が多すぎてわかりにくくなった気もします。でもそれだけ大きいと印象を付けたり、ちょっと冗談めいて伝えて聞き手を飽きさせない、といった使い方もできそうです。

さらに、人が移動するときのイメージなら、こんなデータの引用もあります。

データ4:東京ドームの外周は約700メートル。分速80メートルの速さで歩いたら、約9分。

「このリゾートの周りを分速80メートルで歩いたとして、およそ30分かかる大きさです。ちなみに駅から徒歩○分という不動産広告の表示の速さですね」

具体的な数字では意外とわかりにくいときには、知っているイメージできるものを引っ張ってくるなど最適なたとえをしてみます。

伝えた数字は忘れてもイメージだけは強く印象に残ることでしょう。

〈まとめ〉
数字をイメージ化すると、サイズ感の輪郭がわかりやすい

では今度は、数字をわかりやすくするために、母体を変えてパワーアップしてみます。

数字をパワーアップする勘違いマジック

しっかりした出元の数字は、確かな証拠提示になって信頼性が増します。せっかくのデータですから、それをさらに強めて、主張をパワフルにしてみましょう。たとえば、次のようなデータでパスタの伸びを強調してみます。

たとえば、次のように伝えるとします。

「総務省統計局のデータで、コロナの影響で食事代は約30%減、飲食代は約53%減です。つまり、外食が減った分で出費が抑えられているわけですね。その反面、家庭での飲食に予算をかけるようになっています。」
「米や即席めん類がともに約15%増なのに対し、パスタの需要は約44%増です」

こんなふうに食事代の減少を示した上で、15%伸びた米やめん類を挙げ、その上でパスタはさらに増えて44%と示すと、伸び率がより感じやすくなります。

CHANGEの吹き出し
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売り上げを提示し、売り上げの伸び率を際立たせる

書籍『超・引用力』(青春出版社)でもご説明していますが、引用したデータはそのままではなく言い換えてみます。

「つまり、1.5倍も伸びています」
「パスタの販売伸び率は米や即席めんの約3倍です!」

こんな風に言い方や母体を変えて提示するだけで、すっきりしてわかりやすくなります。

[引用データの言い換え例]
外食は減少。家庭で米や即席めん類が約15%増、パスタの需要は約44%増
パスタの消費量は44%増えている←1.5倍の伸び←米や即席めんの3倍!

あるいは、母体を少しずらしてみるだけで、持ってきたデータがグンと引き立つこともあります。

たとえば、「小売り全体で44%増」だとして、もし母体を「家庭」だけにしたら55%増になるのであれば「家庭消費ではなんと55%増です」と母体をずらして、マーケットの伸び率を強調することも有効でしょう。

数字が大きくなるだけで割合が大きくなったような気がするのは、母体をずらしたことによるちょっとした錯覚。実際には同じ数値にすぎないものを、より大きく見せる勘違いマジックです。

そのままデータを引用するだけでももちろん効果がありますが、さらにそのデータの母体をずらすことでより伝わりやすくする効果も狙える例です。

〈まとめ〉
母体を変えて効果を高める、勘違いマジックを使う

次は、大きな数字を直感的にイメージしやすくするコツです。

数字を小さくしてイメージしやすくする

説明される数字が大きいほどイメージはつかみにくくなるものです。

ここでは聞き手にわかりやすくするために、パーセンテージを縮小して、イメージしやすい単位に応用してみましょう。

たとえば、世界の人口や食料の数値など膨大になる数字伝えるとすると、かなり大きな数値や面積になります。だいぶ前に流行った「地球を100人の村にたとえた話」では、わかりにくい数字をイメージしやすく提示していました。

これは、世界の人口を100人の村に縮小して「多様性」や「貧富の格差」など人種や生活を表した文章で、インターネットを介して世界に広まっていきました。縮小して人口比を示すことで、ずいぶんと人数比率のイメージがしやすくなり、全体像を理解できるようになります。

地球のコンセプト
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あらゆる規模のデータに応用できる

では、当時のデータからそのまま引用してトラクターを販売するときのマーケットの可能性を伝える話をしてみましょう。(*)

上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)
上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)

「世界には65億人の人がいますが、もしもそれを100人の村に縮めて作付け者のありかたを見てみるとどうなるでしょう。
100人のうち47人は農村に、53人は都市に住んでいます。
畑を耕し、家畜を育て、食べ物を作っている人は20人です。
20人のうち13人はトラクターで、7人は人の力で耕しています。
つまり、世界の農業人口ではまだ20人中7人、
3割以上の人たちに対してマーケット拡大の可能性があるわけです……」

これは、あらゆる規模のデータに応用が利きます。流行した話としてではなく、この基本にある考え方を活用すること。こうして数字を小さくした形にして話すだけで、大きな数字データの割合が一目で理解できるようになります。

〈まとめ〉大きな数字は、縮小して割合をくっきりさせる
「数字を生かす引用レシピ」のポイントまとめ
知っているもので大きさを見せる
→イメージ化するとサイズ感の輪郭がわかりやすく、数字は忘れてもイメージが残る
データの母体を変える
→より数字の効果が強まる母体を選ぶ
数字を小さくしてイメージしやすくする
→大きな数字は、縮小して割合をくっきりさせる

*現在の実数値とは異なります。