「刺さる話」ができる人はどのような話し方をしているのか。コミュニケーション・アナリストの上野陽子さんは「どんな分野の人でも、自分の得意分野を活かすことでストーリーを紡ぎ、魅力的な話をすることは可能だ。骨格がしっかりある上で、エピソードやデータなどさまざまな引用を入れれば、刺さる話に仕上がる」という――。

※本稿は、上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

「この人おもしろいなぁ」の秘密

立て板に水が流れるように話したり、文章に人を引き込んだり、「ああ、この人おもしろいなぁ」と心を惹かれた経験はありませんか。

笑えるような人を楽しませるエンターテインメント性があるわけではないのに惹かれる、どこか深みや味わいのある話。

今まで、さまざまなコミュニケーションの記事や書籍を書き、いろんな方の取材をしてきて、伝え方が上手な人の多くにある特徴を感じています。

それは、たとえ雑談でも話が理解しやすく、雑多に話しているようでも起承転結があったり、オチがついたりすること。そして結論がわかりやすく、物語性に富んでいること。

コミュニケーションのイメージ
写真=iStock.com/Parradee Kietsirikul
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話は「引用」でどんどんおもしろくなる

加えて特徴的なのが、「引用」を上手に使っているということです。

日常的に蓄えた、さまざまな言葉やデータなどの知識やメディアなどで得た情報を、ほんの少し手を加えて話の中に取り込んでいます。

知識は、あれこれ情報を取り込んだ引用の集合体のような側面も見られます。その断片を切り取って、また別の話の流れに組み込んでやることで、新たなストーリーになっていきます。

引用元の種類については『超・引用力』(青春出版社)の第3章以降で触れていますが、名言もあれば失敗談やちょっとしたエピソード、あらゆる数字やデータも引用できます。簡単なところでは「誰かがこんなふうに言ったんだけどさ」というのも引用ですね。

テレビで芸人さんたちがテーブルを囲んで話すエピソードでも、人との会話や経験談などがふんだんに盛り込まれています。

引用は、自分が伝えたいことや主張を補完し、拡張し、押し上げてくれる役割を果たすもの。話が引用によって展開され、進化して、どんどんおもしろくなって、人を引き込んでいってくれます。

さて、引用の名手のひとりに、スティーブ・ジョブズがあげられます。

実は誰かの引用なのに、まるで自分の言葉のかのように名言化してしまった例もあるほどの引用の名手。

その効果的な方法は、どんなものだったか見ていきましょう。

「引用」を名言に変えたスティーブ・ジョブズ

ジョブズは、ご存じの通りアップル社を創設しiPhoneやiPadなどを生み出した人物。

特にスタンフォード大学の卒業式のスピーチ「ハングリーであれ、愚かであれ」の名言は、CMでも使われるなどあまりに有名です。

これは、まるでジョブズの名言のように独り歩きしていますが、実はジョブズが考えた言葉ではありません。

ご存じの方も多いかと思いますが、「ホールアース・カタログ」という雑誌の裏表紙に書かれていた言葉を、スタンフォードでのスピーチ原稿で引用したものでした。

スピーチの中でその雑誌の魅力について語り、掲載された荒野の一本道の写真と、そこに書かれていた「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ、愚かであれ)」の言葉を、こんなふうに説明していました。

「(雑誌ホールアース・カタログの)最終版の裏表紙は朝の田舎道の写真で、冒険好きがヒッチハイクをしていそうな場面でした。その下にこんな言葉があります。

『ハングリーであれ、愚かであれ』。これは、(編集長の)スチュアートたちが活動を終えるに当たっての別れの言葉。私は常にこの言葉のようにありたいと願ってきました。そして今、皆が卒業して新たに歩みを始めるに当たり、皆にもそうあってほしいと思います。

「ハングリーであれ、愚かであれ」

こうして締めくくられたスピーチでジョブズが学生たちに贈った言葉は、ジョブズが思い描くハングリー精神を端的に表し、あまりにインパクトが強いものでした。

スティーブ・ジョブズを表示したApple製品
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印象に残る引用方法のコツ

聞き手も自分たちを鼓舞してくれる言葉として、ハッとさせられ、さらには覚えやすいフレーズだったこともあり、誰にとっても心に残る名言になったというわけです。

これが「雑誌の裏表紙にこんなふうに書かれていた」と説明しただけでは、ここまでの広がりはなかったように思います。

最後に念押しで、この短く濃い言葉を繰り返して締めくくった粋な使い方。この提示方法こそが言葉自体にインパクトを与え、名言として引用された言葉以上に名言化されたのでしょう。

広くこの言葉を知らせてくれたのがジョブズだっただけ。でも、ジョブズが養子であり、大学を中退して食べ物にも困る日々を送り、自分が作った会社も追われ、ガンになって死と向き合い……と紆余曲折の人生が語られたあとだったからこそ、そして何よりも、ジョブズ自身の心が動いた言葉だからこそ、誰しもの心に刺さったのだと思います。

こうして誰でもわかるようなストーリーの流れを作り、引用を組み込むことは、人を話に引き付けるために効果的。人の心を動かす人たちにみられる、共通点が次のような「引用」方法です。

話がうまい人の3つの特徴

まず、「話がうまい」というと、どんな人を思い浮かべるでしょうか? プロのお笑い芸人の方々、アナウンサーあるいは、TEDなどに登場する一流のプレゼンテーター、もしくは周りの話し上手や営業トークに長けた人を思い浮かべるかもしれません。

コミュニケーション・アナリストとして、さまざまな媒体を通じてのコミュニケーションを分析してきました。そうした経験をもとに、一般的に話がうまいと感じる人の特徴を、大きく3つに分類してみました。それは、

・流れのある、論理的な話ができる人
・ストーリー性のある、刺さる話ができる人

そして、両方を兼ね備える

・話の筋を通し、かつ刺さる話ができる人

「論理的に話せるけれど、刺さる話にまではいきつけない」という人もよく見かけるかと思います。でも、「刺さる話ができる人」は概して、「話の道筋をつけて話せる人」が多いように思います。つまり物語的な流れを作ること。

話は、経験が反映されていたり、個人の得意分野が盛り込まれたりするほどに人をひきつけるものです。

ビリヤードボールを1,2,3の順番に配置
写真=iStock.com/PolenAZ
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自分の得意分野を活かす

たとえば、いろんな分野の人がプレゼンテーションを行うTEDでは、さまざまな話が繰り広げられますね。

動くデータでおもしろおかしく社会問題を提示した学者から、自分の脳梗塞を観察した科学者、企業経営者、アーティストや大道芸人……まで。繰り広げられるのは、思い思いのテーマでエピソードが盛り込まれ、心に残る「刺さる話」ばかり。どんな分野の人でも、自分の得意分野を活かすことでストーリーを紡ぎ、魅力的な話をすることは可能なわけです。

自分にとっては日常でさしておもしろいと思わなくても、分野の違う人にとっては、珍しく、興味を惹かれ、なるほどと頷ける内容であることが多いのです。

ネットにあがっていますので、ご覧になったことがない方はプレゼンの妙を参考にしたり楽しんだりするだけでなく、話のネタとして見ることもお勧めです。

さて、こうした「刺さる話」を生み出す「引用」は、デール・カーネギーも得意とするところでした。どんな風に効果的に使われていたのでしょう。

話に引き込む! デール・カーネギーの引用術

偉人や成功者の名言、誰かのスピーチや書籍、新聞などの言葉、心に残った漫画のセリフまで……こうした名言を引用することはもちろんです。これに加えて、自分が体験したことや、誰かから聞いた話といったエピソード、たとえ話や論拠の支えとなるデータまでを含め、過去にあった出来事や以前伝えた話も引用として捉えます。

上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)
上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)

人を動かす』や『話し方入門』などの著書でも知られるデール・カーネギー氏は、自分であれ誰かの身の回りの人の話題であれ、とにかくエピソードや名言を話の流れで多用します。前回記事でご紹介したように本当に起きた出来事だからこそ、話が生き生きしています。

しかも、エピソードを使ってストーリーに引き込むような引用をするので、知らずに引き込まれるほど魅力的な話の仕上がりに。

自分の体験談でも他者のものでも、あらゆる事例を適切に盛り込むことで、相手の心に響く話になるものです。こうして上手に入れ込んだ「引用」をエッセンスとすることで、印象に残る「刺さる」話になることでしょう。