聞く人を動かすフレーズにはどのような特徴があるのか。コミュニケーション・アナリストの上野陽子さんは「余計なものはそぎ落とすこと。すると言葉としての核心部分は際立ってくる」という――。

※本稿は、上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

小池百合子氏の話っぷり

今回の都知事選の後、当選者より目立ったのは2位に浮上した石丸伸二氏のネット戦略と、当初は“一騎打ち”と言われた蓮舫氏が結果3位に終わった完敗ぶり。声高に小池氏にかみつくものの、短い言葉で切って捨てられる場面が多くみられ、小池氏の余計なことは言わず、むしろ簡単なフレーズで終わらせる話しっぷりに押された印象でした。

そもそも小池氏が発する言葉は、短く、端的で、マスコミが見出しにしたくなるような、核になる言葉を柱に、不用な形容詞や文を排除するのを得意とします。

コロナ禍のときにもみられた「3密の回避」「東京アラート」「ステイホーム週間」など、キャッチコピーを作るのがうまい。囲み取材の瞬間に発した「密です、密です」は、「密ですから距離をおきましょう」よりもゴロ感がよく、アニメ化された百合子が飛んでくるゲーム化までされるなど話題性に富んでいました。

東京都知事選で3選を果たし、報道陣の取材に応じる小池百合子知事=2024年7月8日、東京都新宿区
写真=時事通信フォト
東京都知事選で3選を果たし、報道陣の取材に応じる小池百合子知事=2024年7月8日、東京都新宿区

余計なものはそぎ落とす

そして今回の都知事選でも再度ダイバーシティ、セーフシティ、スマートシティの「3のシティ」を持ち出して、都政実行プランをまとめて提示。カタカナが並んでわかりにくくもありつつ、「多様性を大切にして、さまざまな立場の人が住みやすい街、安全で誰もが……」といわれるよりは、スッと耳に入ってきます。当時は慣れなかったカタカナ「クールビズ」も涼しく、スマートにビジネスをしましょうというニュアンスを一言にまとめてすっかり定着しました。すべてに通じるのは……

余計なものはそぎ落とすこと。

すると言葉としての核心部分は際立ってきます。

たとえば非常口に書かれた走る人、歩行者信号の歩く・止まるなどの簡潔に書かれたイラストのピクトグラムは、直感的に「非常口はここ」「止まれ」とわかります。

言葉も余分をそぎ落としてピクトグラム化。詳細はわからなくても、「これだ!」と直感できる内容理解ができるわけです。

政策そのもの、それを実行しているか、よく聞くと回答を避けてはいないか……といった実の議論は今回は抜きにして、とにかくわかりやすく伝えてくれるといえるでしょう。元キャスターらしいクリアな話っぷりに加えて、マスコミが考えるべき見出しをそのまましゃべってくれるありがたい表現者でもあります。

こうした小池氏のクリアでシンプルな表現に学んで、私たちの日常で簡単に生かすには、4つの引用ポイントが考えられます。

聞く人を動かすフレーズづくりの4つのコツ

長い話も余分をそぎ落とすことで、スッキリとキャッチコピーのような印象が残る言葉に変わるのです。

たとえば日常で応用するなら誰かの言葉から引用するのもひとつ。誰でもすぐに浮かぶインパクトのある言葉で、有名なものがたくさんあります。

特徴は、短く、覚えやすく、意味がすぐにわかること。どこか語呂がよく、端的に深い意味を含むこと。

例としては次の4つが挙げられます。

1.スパッと刺さる短さ
2.一瞬で記憶に残る深さ
3.今までと違う概念や伝え方
4.意味が凝縮された濃さ

こうした言葉を引用することで、長い話もピリッと引き締まり、さらにはそのひと言がすべてを言い表してくれさえします。コツは、自分の言いたいこと全体を、シャープに言い表してくれている言葉を見つけること。たとえばその引用がすべてを凝縮してくれていれば、最後にその言葉で締めれば印象が強く残ります。

変革せよ。変革を迫られる前に。
ゼネラル・エレクトリック社元CEO ジャック・ウェルチ


人生は大なる戦場である。
島崎藤村『緑葉集』

こうした短く、シャープにとがって含蓄があり、口にしたくなるような、それでいて印象強い言葉。言葉の印象は、自分の主張をパワフルにして、心に響く印象を与えることにもつながります。

暗い背景の前に輝く番号4
写真=iStock.com/MicroStockHub
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シャープな言葉を使えるようにしておく

もう少し文脈がある言葉なら、次のような例もあります。見た瞬間というよりも、少しだけ読む感じになりますが、それでも短いフレーズで含蓄があります。

大切なのは、変化できるかどうかではない。十分な速さで変化しているかだ。
ドイツ第8代首相 アンジェラ・メルケル


人生とは、自分を見つけることではない。自分を創りあげることだ。
作家 ジョージ・バーナード・ショー

少ない言葉で思想が伝わってきます。わかりやすく、腑に落ちて、エネルギーを感じさせ、人を動かす力のある言葉です。

短く覚えやすく、語感よく、端的に深い意味を含む言葉を生かす。

こうしたシャープな言葉は生かしやすいので、たくさん使えるようにしておくことがお勧めです。

インパクトのある言葉は、説明をしなくても十分に含む意味が伝わってきたり、その言葉を受け取った人がそれぞれに解釈できたりするような幅を持ちます。自分の伝えたいことを、こうした言葉を使って端的に表すなら、たとえば次のような方法が考えられます。

印象を残し、人をぐっと引き付ける

明日死ぬかのように生き、
永遠に生きるかのように学びなさい。
政治指導者 マハトマ・ガンジー

よくある「明日死ぬかもしれない」といった名言です。そこに「永遠に生きるかのように学びなさい」が加わることで、生きるための術としてハッとさせられます。

言葉から受けるインパクトは、そのときどきで自分の中でも変わるもの。あんなに心が動いたのにそうでもなくなったときは、きっと自分が変わったとき。それでも誰かの心には響きます。よく言葉を吟味してみると、普遍性があるものか、自分の今の心情なのかの見分けがつけられるかと思います。

言葉の解釈、概念、背景を生かしてハッとさせるポイントは次の通りです。

赤いハートを持つ女性の手
写真=iStock.com/Leks_Laputin
※写真はイメージです

シンプルにするだけで心にスッと入る

難しく、わかりにくい言葉や、少し長い文章、会話の一部などの引用のときには、なるべく短く、わかりやすく、かつ具体的な表現で、言いたい内容をギュッと絞り出しましょう。濃縮したエキスのような言葉にすると、いっそうその言葉が効果を発揮してくれます。

たとえば、映画監督で芸人の北野武さんのインタビュー記事に、こんな言葉がありました。

「生きていくことは苦しいことで、おまけとして楽しいことがたまにある。

ただ、普通に生活している中で苦しい苦しいなんていちいち思ってないけどね。」

この言っている内容はそのままで少しそぎ落としてシンプルにするだけで、言葉が目にも心にもスッと入ってくる名言になります。

「生きていくのは苦しいことで、おまけとして楽しいことがある。」

広告のキャッチコピーを参考にする

長めの文章を、たとえば本や広告の見出しやキャッチコピーのように短く本質を際立たせる。そのやり方は簡単です。

1.発言の「本質の言葉」を取り出し、余分を削る
2.ワンフレーズの見出し風にまとめる

上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)
上野陽子『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(青春出版社)

こうすると長い文章からでも、本質をついた名言が生み出せます。記事の見出しや広告のキャッチコピーを参考にすると、まとめやすいかもしれません。

次の例では、悩みながらも自らの改善を働きかける友人や部下などに、助言をするとします。自分ならどんなふうに伝えるか思い浮かべてみてください。

(課題例)自分から動いて、物事を変えていくよう伝える

たとえば、「まずは自分なりの企画を立ててみること。いつか自分に番が回ってくるだろうと待っていても声がかかるとは限らない」といった内容を伝えるとします。

そこに一例として、こんな短めな文章の名言を持ってくるのはどうでしょう。

人はいつだって「時間が物事を変える」と言うが、実際はあなた自身が変えなければならない。
アーティスト アンディ・ウォーホール


人間は3種類。物事を起こす人。物事が起こるのを眺めている人。「何が起こったの?」と聞く人。
ジャーナリスト アン・ランダース

そして自分の言葉で「だったら、物事を自分で変える人、起こす人になるほうがいいだろう?」と伝えてみる。

こうして名言もデータもサッと違和感なく使うことができるように、毎日の中で引用できる言葉をシャープにしておくことで、より刺さる伝わり方になるものです。