頑張っているのに成績が伸びない営業の問題点はなにか。大手広告代理店で管理職をつとめる後田良輔さんは、「デキる営業はものを売らない。相手に寄り添った痒いところに手が届く提案を行うことで指名受注を獲得している」という――。

※本稿は、後田良輔『今こそ使える昭和の仕事術 ビジネスマン30年生の経験がたった3分で身につく』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

相手が悩んでいること・嬉しいことを研究する

「デキる営業はものを売らない」

これが3000名のVIPを研究して発見した意外な真実です。

桁外れの営業成績をたたき出す彼らですが、よくよく観察するとそれほどセールステクニックは上手くない。

しかしクライアントに寄り添う姿勢が群を抜いて優れていました。

彼らの本当の強みは、クライアントの悩みや嬉しいことを徹底的に研究し、それを解決する手段を提案する姿勢にあったのです。

①「会社の方針にあった提案を行う」
② 「担当者個人の悩みに寄り添ったものを提案する」

「将を射んとする者はまず馬を射よ」ということわざがあるように、実は②がとても重要。

なぜならどんなによい提案でも、担当者を飛ばして決まっていくことはないからです。

成功したVIPはこのことを知っており、担当者が悩んでいること・嬉しいことに徹底して寄り添っていました。

そしてまさに痒い所に手が届く提案を行い、「この人は本当によくわかっている」と思われ、指名受注を獲得していたのです。

あなたも自分のために働いてくれる人がいたら手放しませんよね。

ぜひ個人の願望に寄り添ってみてください。

会社で良好な関係を築くビジネスフレンド
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提案は相手の会社の企画書フォーマットで作る

「300ページに渡る渾身の出来の企画書を提案した」
「クライアントの検討日ぎりぎりだったが、何とか魅力的な提案ができた」

クライアントのためを思い一生懸命作成した提案書も「企画書のフォーマットを何にするか」で採用率が天と地ほど変化します。もしあなたが自社のフォーマットに固執しているなら、損する人と言えるでしょう。

一般的なクライアントは提案会社のフォーマットのまま社内上申することはありません。

自社のフォーマットにコピペし直し、自分の意見を追記してから上層部に提出します。

つまり300ページの企画書や検討日のぎりぎりに提出された企画書は、コピーや追記の観点からすると、ありえないほど面倒くさい企画書と思われます。

これからは相手の会社の企画書フォーマットをもらい、最初からそれで提案書を作ってあげましょう。

世の中はAIが文章作成の手間を肩代わりする便利な時代になっています。それにも関わらず、いちいち打ち変える必要がある提案書なんて面倒くさくて仕方がありません。

内容も大切ですが、相手の手間を減らすのはもっと大切なおもてなしです。相手が楽に上申できるように工夫するのがデキる営業の秘密のテクニックです。

「他」の事例を取り入れる

「追いつき、追い越せ」

明治時代や第二次世界大戦のあとに、日本はそれまででは考えられないほど大発展しました。

その理由は他国の成功事例を研究し、日本になかった優れたところを導入したからです。

まさに「追いつき、追い越せ」のスローガン通り。

この他の成功者に学ぶという方法は現代のビジネスにおいても使えます。

クライアントとの会話や提案書に、積極的に他業種・他国・他世代などの「他」の成功例を取り入れてみてください。

それだけであなたの提案は説得力を増すことができます。

理由は3つあります。

① 他社の成功事例をそのまま応用できるから
② 他と比較することで自分の立ち位置を冷静に判断できるから
② 他山の石として失敗事例を学ぶことができるから

ぜひ「他」の事例であなたの提案を増強してください。

人は他の成功事例を見ると安心し、やってみようと思うものです。

「これは助かる・便利」とクライアントから言われること間違いなしです。

指で数える
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建て前の案と本音の案

「三流の営業は予算に提案を合わせる。一流の営業は相手の悩みの解決に予算を合わせる」

3000名のVIPの営業術を研究して発見した事実がこの法則です。

例えば不動産賃貸の場合、普通の営業は予算を聞いて、その範囲内に収まる家を提案します。

一方デキる営業は、予算に加えて新居で叶えたい理想の暮らしもヒヤリング。そして予算を超えていても本来実現したいと思っていた理想の暮らしを叶える物件も提案します。

結果、当初提示された予算を上振れした物件であっても感謝され、採用されることに成功します。

人には本音と建て前があります。これからはクライアントがいう予算(建て前)の案と、実は望んでいる本音の希望の案の2つを提案するようにしてください。

相手の予算だけに固執して提案するのは間違いです。注力すべきは、クライアントが悩んでいる課題解決に固執し、コミットすること。

この姿勢があれば予算を超えた提案をしても、「この人は自分の気持ちに寄り添ってくれる」と逆に感謝されます。

あなたに提案を求めるクライアントは素人です。その素人が見込んだ予算は、当然あやふやなもの。だからこそ解決したい課題に注力し、プロの目から課題解決に必要なアイデアを提案すべきなのです。相手が本気になれば、予算はあとから社内調整で何とでもなるものです。

一旦、「やってみます」が正解

「初めて企画書を作る」「初めて会議を仕切る」

「初めて一人でクライアントを訪問する」など、不慣れなことを依頼されると、人は思わず尻込みし、逃げ出したくなるものです。でもそんな未経験や苦手な仕事に出会ったら、まず一旦、受け入れてみましょう。

なぜならあなたの周りの人たちは、あなたの能力や仕事ぶりを見ていないようで、実はよく観察しているからです。本当にできない人に「できない仕事」を振ることはありません。にも関わらず、逃げ出したり、嫌な顔をすると、周囲からの信頼を失うことになります。

だからこそ「やってみます」と、前向きに返答するのが正解です。失敗してもだいじょうぶ。仕事を依頼した人はその可能性まで、実は折り込み済みです。「たとえ失敗しても命を取られることはない」と考え、前向きに頑張れば成長と信頼の2つを獲得できます。

俳優・文筆家・画家などマルチな活躍で有名なリリー・フランキーさんは言いました。

「できないって言うのはもったいない。だから何でもやらせてくださいって言うんです」と。成功したVIPの中には自分の幅を広げるため、未経験にも関わらず「それ、得意です!」と言って仕事を獲得してから、急いで勉強する人もいたくらいです。未経験や苦手分野こそ、あなたの成長の伸びしろです。前向きに取り組まないのは損以外の何物でもありません。

握手
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重要なのは予算規模の大きさ

「能力が低いのに大きな利益を稼げる人の秘密は何だろう……?」

営業を始めて30年。最初の10年で感じていたのがこの疑問でした。

「アポの効率を上げる方法」「クロージングのトークを磨くテクニック」など、世の中にはデキる営業パーソンが書いたノウハウ本があふれています。

私もそのような本を500冊ほど読み込みましたが、それだけで劇的に営業成績を上げることはできませんでした。なぜなら肝心の営業の真理を把握していなかったからです。

今ならわかります。営業成績は、クライアントの予算規模で決まります。

後田良輔『今こそ使える昭和の仕事術 ビジネスマン30年生の経験がたった3分で身につく』(かんき出版)
後田良輔『今こそ使える昭和の仕事術 ビジネスマン30年生の経験がたった3分で身につく』(かんき出版)

100円の仕事も1億円の仕事も、正直、労力はそれほど大きくは変わりません。にも関わらず、普通の人は目の前の仕事に没頭。結果、時間を失い、売上が上がらないと嘆いています。

一方、同じ時間で大きな売上を上げる人は、大きな予算規模のクライアントに注力しています。冒頭の能力が低いけど稼ぐ営業は、まさに大きな予算のクライアントで稼いでいたのです。

スキルはとても大切です。しかし営業成績は、「営業成績=アポの数×打率×クライアントの予算規模」の公式で決まります。

目の前の仕事も大切ですが、予算規模の大きさで仕事を選ぶことはもっと重要です。スキル向上と合わせて規模も追い求めてください。