※本稿は、平松類『眼圧を下げるには? 失明を避けるには? 緑内障について平松類先生に聞いてみた』(Gakken)の一部を再編集したものです。
緑内障の適正眼圧は患者さん一人ひとり違う
お答えしましょう:進行には個人差があります。多くの人は視野欠損の進行が抑えられますが、一部の人は止まりません。
眼圧が3割程度下がれば、70〜80%の人は視野欠損の進行が抑えられます。しかし同時に、このことは眼圧を下げても20〜30%の人の視野欠損は進行し続けることも示しています。
その理由は、緑内障の適正眼圧は患者さん一人ひとり異なっているからです。
たとえば、22mmHgという高眼圧であっても視野が欠損しない人もいれば、10mmHg以下なのに緑内障を発症して、視野欠損が進行し続ける人もいるのです。
眼圧が下がっても視野欠損が進行する場合は、目薬を追加してさらに眼圧を下げる治療をし、それでも経過がよくならない場合は、手術やレーザー治療への移行を検討します。
眼圧が下がっても完全に安心はできない
また、眼圧が下がって視野の欠損が止まったからといって、完全に安心するわけにもいかないのです。なぜかというと、加齢により患者さんの目標眼圧が変わることもあるからです。
診察時間の眼圧よりも、家庭にいるときの眼圧が高いケースも6割程度あるという研究結果もあります。また先天的に角膜が弱い人、レーシックで角膜を削った人などは、眼圧が低く測定されるため、測定方法や測定値の検証が必要な場合もあります。
眼圧は、血圧と同じように一日の中で変動し、姿勢によっても変わります。先天的な影響、レーシック、加齢によっても変わるため、個人差を考慮しつつ、定期的に測定する必要があります。
目の周りのマッサージは効果があるのか
お答えしましょう:目やその周辺のマッサージは危険です。緑内障に効果があるマッサージは、確認されていません。
緑内障に効果があるマッサージは確認できていないというのが現状です。実際、緑内障に有用であるというマッサージは、私が調べた限り出てきません。漢方や鍼灸などの東洋医学の手法に関しても、科学的な裏付けを示すデータは十分ではないと言わざるを得ません。
注意すべきは、「緑内障に効く」と言い切っているものです。マッサージは、あくまでリラックス目的でおこなってください。またリラックス目的であっても、目の周りをマッサージするのはNGです。緑内障によいどころか、悪化する可能性もあるので絶対やめてください。
「目を温めるといい効果がありますか?」とよく質問を受けますが、残念ながら眼圧を下げる効果はありません。しかし、緑内障の患者さんは目の表面が荒れやすいので、そのケア方法としては有効です。
治療の基本は目薬
治療の基本は目薬です。あくまで心身をリラックスする目的で、目の周囲以外のところをマッサージするというのが正しいと思います。
また、マッサージだけに限らず、東洋医学の手法も含めて、西洋医学を全否定する治療法からは離れて欲しいと思います。
その理由は、私が勤務する病院にも西洋医学を否定する人から指導された治療を受け続けた挙句に、後期まで進行してしまい、ほぼ手の施しようのない患者さんが少なからずいらっしゃるからです。こんなときほど、医師として悔しい思いをすることはありません。
マインドフルネスで眼圧を下げる
お答えしましょう:複数の研究結果により、マインドフルネスには眼圧を4mmHg程度下げる効果が認められています。
マインドフルネスとは、簡単にいえば「いま、ここにある状態に満足する」という瞑想の一種のことです。瞑想というと「なんだか、怪しいな……」と警戒される方もいらっしゃるかもしれませんが、実は科学的にその効果を裏付ける研究結果も示されていて、世界的に大変多くの人が実践しています。
緑内障への効果についても複数の研究結果が示されていて、マインドフルネスをおこなうことで眼圧を平均4mmHg程度下げる効果があるといわれています。通常、目薬1本で眼圧は2〜4mmHg下げる効果があるとされているので、マインドフルネスには目薬1本程度の治療効果が期待できるといえます(ただし通常治療が基本であくまで効けばいいなというサポートです。ですから、目薬を止めるのはNGです)。
腹式呼吸をプラスする
おすすめしたいマインドフルネスのやり方は、呼吸法を加味したものです。まずは、雑音が入らないリラックスできる空間を探しましょう。そこで意識を集中させて、「いま、ここにいる自分」という存在に、ただ向き合うイメージです。呼吸は、腹式呼吸です。ゆっくり大きく鼻から息を吸い、吐きましょう。
時間は1分程度、点眼後に目をつむって目頭を押さえる時間におこなうのもよいでしょう。
1970年代後半頃からアメリカでは医療分野で用いられるようになりました。その後、多くの医学的研究がおこなわれて今日にいたっています。
視野に有効なトレーニング
お答えしましょう:「見る」という行為は、目と脳の共同作業です。脳を鍛えて見やすくするトレーニングを紹介します。
「見る」という行為は、最終的には目ではなく、脳がおこないます。目から入ってくる情報を、脳がうまく処理することで、私たちは「見る」ことができるのです。
ここでは、有効視野を広げる「脳知覚トレーニング」をご紹介します。図表4の中心にある「ココを見る」を見つめたまま、周囲にある2つの円、それぞれの円上にならぶマークのうち、ひとつだけ違うマークがあることをパッと認識できるかを毎日確認しましょう。この一瞬で認識するトレーニングを続けることで、みなさんの有効視野を広げることができます。
有効視野とは、上下に各20°、左右に各30°の範囲で、人がいる、物がある、また変化などをなんとなく把握できる実用度の高い視野をいいます。一度失った視野は戻りませんが、有効視野は訓練によって拡大できることが医学的研究によってわかっています。視野は変わらないけれども今ある視野をうまく使えるというイメージです。視野の真ん中を見つめたまま周囲の情報を認識することを分散的集中といいますが、この能力を鍛えることで、段差をよけたり、車の運転中に飛び出してきた人を避けるなど、不測の事態への反応が早くなります。また、認知症になるリスクを29%も抑えられるという報告もあります。
分散と集中は、一見矛盾しているようですが、簡単にいえば「●●しながら▲▲する」ということです。もともと人間には不得意なことですが、訓練によって上手にできるようになります。
疲れ目用の目薬をさしてもいいのか
緑内障の目薬を点眼し続けると、どうしても目の表面が荒れやすくなります。そのため、市販されている疲れ目用の目薬を併用したいという患者さんは、多くいらっしゃいます。併用に関しては主治医との相談が必要ですが、使えることが多いです。その場合に関して以下のルールをお勧めします。まず、市販の目薬は、なるべく防腐剤を含まないものを選んでください。また、点眼する順番は、市販の目薬→緑内障の目薬とし、緑内障の目薬の流出を防ぐようにしてください。
ポイント:目薬の併用ルール
①市販薬は防腐剤を含まない目薬を選ぶ
②市販の目薬→緑内障の目薬の順にさす
※閉塞隅角緑内障の場合は、急性緑内障を引き起こす可能性があるネオスチグミンメチル硫酸塩を含まない目薬を選ぶ必要があるため、主治医に相談を