共働き世帯は専業主婦世帯の2.5倍に
日本の少子化が止まりません。
厚生労働省の「人口動態統計速報」によれば、2023年の出生数は75万8631人であり、2年連続で80万人台を割り込みました。日本で出生数が100万人を切ったのは2016年で、その後のコロナウイルス蔓延の影響もあってか、出生数の低下に拍車がかかっています。
日本では少子化とともに高齢化が急速に進展しているため、年金や医療といった社会保障制度の持続可能性や、今後の経済発展に大きな懸念が持たれています。
この少子化の原因としてさまざまな要因が指摘されていますが、中でもたびたび挙がるのが共働き世帯の増加です。
日本では共働き世帯が持続的に増加しており、1992年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回っています。直近の2023年では共働き世帯が1278万世帯で専業主婦世帯が517万世帯となり、共働き世帯が専業主婦世帯の約2.5倍です。
このように増加する共働き世帯では、女性に仕事と家事・育児の負担が集中するため、子どもが欲しくても諦めているのではないかと指摘されてきました。また、専業主婦世帯では、仕事と家事・育児の両立負担に直面しないため、共働き世帯よりも子どもが多くなるのではないかとも想定されてきました。このような想定は「男性=仕事、女性=家事・育児」といった性別役割分業意識が強い日本では、説得力があります。
実は共働き世帯のほうが子どもが多い
しかし近年、この想定とは逆の結果になっていることを指摘する分析が出てきました。つまり、共働き世帯のほうが子どもの数が多いことがわかってきたのです。
分析を行ったのはニッセイ基礎研究所の人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子研究員です。天野研究員によれば、2015年の国勢調査のデータから、「①専業主婦世帯のほうが共働き世帯よりも子どものいない割合が高い」「②共働き世帯のほうが専業主婦世帯よりも子どもが2人以上の割合が高い」という結果を得ています(*1)。
この結果は大変衝撃的です。共働き世帯のほうが子どもの数が抑制されると想定していたわけですが、少なくとも2015年時点においては当てはまっていません。
いつから専業主婦世帯の子どもが共働き世帯より少なくなったのか
では、いつからこのような傾向が見られるようになったのでしょうか。ある時点から専業主婦世帯と共働き世帯の関係が変わったのでしょうか。もしそうであるならば、それはいつの時点からなのでしょうか。これらの点を明らかにするために、過去にさかのぼってデータを見てみると、大変興味深い結果がわかってきました。
今回は2000年から2020年までの国勢調査のデータを使って、専業主婦世帯と共働き世帯の子どもの数の変化について紹介していきたいと思います。
専業主婦世帯の「子どもなし割合」の推移
図表1は共働き世帯と専業主婦世帯の子どもがいない割合の推移を示しています(*2)。
この図からわかることは、次の2点です。
まず1つ目は、共働き世帯と専業主婦世帯の両方において、子どもがいない割合が徐々に増えています。2000年では共働き世帯の28.0%に子どもがいなかったのですが、2020年には33.6%にまで上昇しています。また、2000年の子どものいない専業主婦世帯の割合は26.5%でしたが、2020年には38.8%となっていました。
2つ目は、時間の経過とともに、専業主婦世帯と共働き世帯の関係が逆転したという点です。
2000年から2010年までは、専業主婦世帯の子どもがいない割合のほうが共働き世帯よりも低くなっていました。しかし、2015年以降になるとこの関係は逆転し、専業主婦世帯の子どもがいない割合のほうが共働き世帯よりも高くなっています。
専業主婦世帯と共働き世帯の両方で子どものいない割合が持続的に伸びているのですが、専業主婦世帯のほうがその伸びが強くなったわけです。この動きは意外だといえるでしょう。
専業主婦世帯は「一人っ子」が多い
続く図表2は子どもが一人の割合の推移を示しています。
この図から、いずれの時点でも専業主婦世帯のほうが子ども一人の割合が高くなっていることがわかります。ただ、共働き世帯の子ども一人の割合が徐々に増加しており、両者の差が縮小傾向にあります。
専業主婦世帯の「子ども2人」率は大きく低下
図表3は子どもが2人いる世帯の割合の推移を示しています。
この図から明らかなとおり、共働き世帯と専業主婦世帯の両方で、子ども2人の割合が低下し続けています。ただその低下の進度は専業主婦世帯で強く、2000年に31.8%だった値が2020年には22.7%にまで減少しています。これと比較して共働き世帯の低下はやや緩く、いずれの時点でも、共働き世帯のほうが子ども2人の割合が高くなっています。
共働き世帯のほうが「3人以上」産んでいる
図表4は子どもが3人以上の割合の推移を示しています。
この図から、共働き世帯と専業主婦世帯の両方で、子ども3人以上の割合が低下し続けていることがわかります。また、いずれの時点でも共働き世帯のほうが3人以上産む割合が高くなっていました。
20年以上前から共働き世帯のほうが子ども数が多い
これまでの分析結果を整理すると、以下の3点となります。
①2000年から2010年までは、共働き世帯の子どもがいない割合のほうが高いが、2015年以降はこの関係が逆転している。
②子ども一人の割合は、専業主婦世帯のほうが持続的に高い。
③子ども2人以上の割合は、共働き世帯のほうが持続的に高い。
これらの結果から、「実は共働き世帯のほうが昔から子どもの数が多い傾向にある」また「2015年以降だと共働き世帯のほうが子どものいない割合が低い」と言えます。
なぜ共働き世帯のほうが子どもが多いのか
ではなぜ、共働き世帯のほうが子どもが多いのでしょうか。この背景として2つの要因が考えられます。
まず1つ目は、共働き世帯と専業主婦世帯の所得の違いです。
図表5は総務省統計局の「家計調査報告」から共働き世帯と専業主婦世帯の月平均の実収入を見ています。実収入とは、税込み収入であり、世帯員全員の現金収入を合計したものを指しています。
これを見ると、2000年以降、一貫して共働き世帯の月収が専業主婦世帯よりも高くなっています。夫の所得が高い世帯ほど妻が専業主婦になりやすい傾向がありますが、平均値で見ると、月収は共働き世帯のほうが高くなっているのです。
このような安定した所得が専業主婦世帯よりも子どもを多く持つことを可能にしていると考えられます。子育てにはお金がかかりますが、共働き世帯のほうがその支出に対応できる収入があるというわけです。
2つ目の要因は、共働き世帯の女性が非正規雇用で働き、仕事と家事・育児の両立負担に対応しているのではないかというものです。
内閣府男女共同参画局の「結婚と家族をめぐる基礎」によれば、増加する共働き世帯の中でも伸び続けているのは妻がパートの世帯であり、妻がフルタイムの世帯数は1985年から2020年の間、概ね横ばいとなっています(*3)。
フルタイムではなく、パートを選択することで仕事と家事・育児の両立負担を何とか対処している可能性があると考えられます。
専業主婦世帯を優遇する制度を温存する必要はあるのか
4割近い専業主婦世帯で子どもがいないということは、多くの人にとって意外な事実です。つまり、彼女たちは出産・育児のために仕事を諦めているわけではないのです。
今、厚生年金保険の適用拡大が議論されています。同時に専業主婦を含む年収130万円未満の配偶者が対象となる第3号被保険者制度の見直しの議論もようやく進められようとしています。専業主婦世帯より共働き世帯のほうが子どもを多く産み、育てていることを考慮すると、第3号被保険者制度や配偶者控除などの「女性が働くことを制限する制度」を温存し続けることは少子化を改善したい日本にとって得策とはいえません。
働かないインセンティブを与える制度を温存するよりも、妻の稼ぎにかかわらず子どもがいる世帯を優遇する両立支援策、子育て支援策のさらなる推進が求められていくでしょう。
それは、子どものいない割合が増え、子ども2人以上の世帯比率が低下する専業主婦・共働き両方の世帯の出生数の落ち込みへの対策になるはずなのです。
(*1)天野馨南子(2020)「実は共働き家庭のほうが産んでいる 統計データが語る「女性の社会進出こそが少子化の元凶」はなぜ真っ赤なウソか」プレジデントウーマン
(*2)図表1~4は、天野馨南子研究員の分析と同じく、夫の全年齢階層の値を使用しています。この場合、日本の夫婦の全体の状況がわかる反面、65歳以上の高齢者も含まれてしまう点に注意が必要です。
(*3)内閣府男女共同参画局(2021)「結婚と家族をめぐる基礎データ」