※本稿は、小泉健一『今さらだけど、アドラー心理学を実践してみたらすごかった』(大和出版)の一部を再編集したものです。
人生を困難にしているのは自分自身
人生は極めてシンプルである
これは心理学者である、アルフレッド・アドラーの言葉です。
あなたは今、充実した人生を送ることができていますか?
それとも人生に苦しんでいますか?
困難が立ちはだかっていますか?
アドラーは人生を困難にしているのは、ほかならぬ自分自身だと言います。
「友人から裏切られた」
「会社をクビになった」
「親に勘当された」
「離婚した」
「仕事で大失敗した」
など、多くの困難や悩みを抱える人も多いでしょう。
しかし、アドラーは、それはすべて自分で自分を困難にしているというのです。
この記事を読んでくださっている人の中には、こうした考え方に納得できない人もいるでしょう。
私もアドラー心理学を知ったばかりの頃は、なんでも自分の責任とする考え方に戸惑い、納得もできませんでした(自分の責任とする考え方は「自己決定性」「認知論」という理論に基づいたものです。本書で詳しく説明しています)。
しかし、アドラー心理学が身につき、実践している現在の私から言わせてもらうと、アドラーの言葉はその通りだと思います。
本稿では、私自身がアドラー心理学を取り入れ、どのように変化をしたかを、簡単にお話ししたいと思います。
自分を犠牲にしてでも他人に役立つことを優先していた
私はもともと、自分のことは犠牲にしてでも他人に優しくし、他人の役に立つことや喜ぶことを優先していました。
例えば学生時代に、他人から何かを頼まれたとき、本当はやりたくないことでも、期待に応えようと断りもしませんでした。
友人と遊びに行くときも、自分が何をしたいかは言わずに、友人のやりたいことを優先していました(友人から「もっと自分の意見とか、やりたいこととか言っていいよ」と言われてしまうくらい……)。
そのまま就職して会社勤めをしても、とにかく言われたことや会社の方針に従うことだけを意識して仕事をしていました。
上司に認められることばかり気にして仕事をしていたのです。
しかし、それでは単なる会社のコマで、心身が削られてしまいます。
「楽しいけど、充実はしていないな……」
これが、20代の私の想いでした。
会社の人たちはとてもいい人ばかりで、職場の人間関係に悩むことはなく、人と対話するのは好きだったので、営業という仕事も苦ではありませんでした。
ただ、自分の人生でやりたいことというものはなく、考えもしなかったので、充実しているとは言えない状態でした。
そもそも自分のやりたいことなんて、どうでもいいとすら思っていたかもしれません……。
仕事以外の「やりがい」が欲しかった
そんな私がアドラー心理学に出会ったのは30歳になる頃でした。
きっかけはコーチングです。
コーチングとは、クライアントが理想や目標を叶えることを目的として、行動や変化を促すためのコミュニケーションです。
対話や質問を通し、クライアントの内側の想いを引き出す手法はカウンセリングに近いです。
私は、会社員として、言われたことしかしていない状況で、今後この先何十年と同じ会社に居続けて、同じ仕事を繰り返すことが幸せなのかと疑問に感じていました。
できれば、趣味とか、お金をもらえなくても充実するようなことで、会社員以外のやりがいを見つけたいと思っていました。
もともと、学生時代は、友人の相談に乗ることが多く、人の話を聴くのが好きでした。そこで、カウンセリングを学んでみようかと考えていたところ、タイミングよくコーチングをやっている知り合いと出会ったのです。
その方は「アドラー心理学をベースとしたコーチング」を提供していました。
それがアドラー心理学との初めての出会いです。
受け身だった30代会社員を変えたコーチの質問
当時はすでに『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著/ダイヤモンド社)がベストセラーとなっていて、「アドラー心理学」という名前は聞いたことがあったのですが、詳しくは知りませんでした。
そうして、さっそく体験コーチングセッションを受けることに。
……びっくりしました。自分ひとりで考えていても思いつかないような結論や、自分の想いが溢れてきたのです。
初めてコーチングを受けるとき、私はとても受け身でした。
「私が何もしなくても、コーチが勝手に導いてくれるのかな……」と。
しかし、コーチングは、クライアントにアドバイスしたり、導いたりはしません。
あくまでクライアントがどうしたいかを尊重します。
「もし、誰からも何も言われなくて、なんでもできるとしたら、何がしたい?」
そんな質問をされて、とても新鮮な気持ちになったのを今でも覚えています。
なぜなら、今まで「自分がどうしたいか」なんて真剣に考えてこなかったからです。
でも、このコーチングセッションを通して「好きなときに好きな場所にいたい」という自分の本音に気がつくことができました。
同時に、今の働き方では、それは叶わないと知り、自分がどうしたいのかを考えるようになりました。
同じ事実も、考え方で大きく変わる
そして、それはアドラー心理学に通じる考え方でした。
コーチングはアドラー心理学ととても相性がいいです。
コーチングでは、過去がどうであれ、
「今のあなたはどうしたいの?」
「どんな未来になっているといい?」
という切り口の質問をします。
これは、アドラー心理学と同じ考え方が基盤となっています。
というのも、アドラー心理学の特徴に、「未来思考である」というものがあります。
アドラー心理学には「目的論」という考え方があり、「人間の行動や感情にはすべて目的がある」といいます。
一方、心理学者フロイトの唱える「原因論」は、「人の行動や感情には必ず原因がある」という考え方をします。これは未来ではなく過去思考です。
目的論と原因論をわかりやすく説明すると、次のようなことです。
これは「目的論」(未来思考)です。
これは「原因論」(過去思考)です。
「プレゼンで失敗した過去がある」「緊張する」という事実はどちらも同じです。ひとつの事実に対し、原因論で考えるか、目的論で考えるか、それは自分で選べます。
アドラー心理学では目的論を尊重します。
なぜなら原因論で考えると、未来は変えられないからです。
「自分の性格がこうだから」と自分で自分に制限をかけていないか
先ほどの事例で言えば、原因論で考えると、プレゼンで失敗した過去がある限り、「緊張してしまう自分」からは逃れられなくなります。
ただ、目的論で考えると、「もう恥をかきたくない」という目的さえ変えれば、行動を変えることができます。
「恥をかいたっていい。しっかり準備をして自分の力をすべて出し切ればいい」と思うことができたら、プレゼンも怖くなくなるでしょう。
私は、この考え方で人生に目的を持つことができました。
あなたは、「自分の性格がこうだから」「これまでの実績がこうだから」「これまでやってみた経験がないから」と自分で制限をかけていないでしょうか。
それは目的さえ変えれば、いつからでも変えられるということです。
これといった「強み」がなかった私
私は学生時代、人とは違った経験や、突出した実績を持っていませんでした。
就職活動のときの自己PRも、アピールすることがなかなかなくて困っていたくらいです。
そんな私なので、コーチングで「やりたいことはなんですか?」と聞かれても、すぐには答えが出てきませんでした。
しかし、コーチングを通してアドラー心理学の考え方を知り、アドラー心理学についての本も5~6冊読んで、その理論を知ることで、過去にとらわれず、今の自分が何をしたいか、どんな未来にしたいかという目標や理想が湧き出てきたのです。
余談ですが、何かひとつのことを学びたいときは、同じテーマで、さまざまな著者が書いた本を複数冊読むことをおすすめします。さまざまな視点からの知見が得られるのでとても学びになりますし、自分自身の考えもまとまるからです。
私は、「人生の中で今が一番楽しい」と断言できます。
今ではアドラー心理学の考え方を通して、会社員の仕事以外にもやりがいを見出し、コーチングや作家活動をしています。
それ以外にも、人間関係も良好になったり、生活習慣も改善されたりと、多くの変化がありました。
断言します。
アドラー心理学を取り入れれば人生は変わります。
本書では、私がアドラー心理学を取り入れて、1年間でどのように変化していったかを時系列で綴っています。
私がアドラー心理学を取り入れた変化は、例えば次のようなものです。
・目標もなくただ働いていた会社の仕事を、やりがいを持ってできるようになった
・会社員以外でも個人でやりたい仕事を見つけることができた(コーチング、作家)
・人間関係のトラブルやメンタルで不調になることがほぼなくなった
・心と体の健康を保つ習慣が身についた
・やりたいことを我慢しなくていいくらい、自由に使えるお金が手に入った(会社員の給料を上回る第2の収入)
現在、少しでも、
「自分のやりたいことがわからない」
「人間関係に悩みがある」
「メンタルが安定しない」
「人生に意義を見出すことができない」
と考えている人がいたら、ぜひ、本書で紹介するアドラー心理学を少しずつ取り入れてみてください。