なぜ人は同じパターンの失敗を繰り返してしまうのか。臨床心理学者のソフィー・モートさんは「おなじみのやり方に戻ってしまうのはごく当たり前のこと。慣れ親しんだ行動に逆戻りした自分に気づいたら、いつもと違うやり方を選べばいい」という――。(第4回/全4回)

※本稿は、ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

いつも堂々巡りに陥る

「本当に、しっかり判断しなくちゃいけないときに、堂々めぐりに陥るんだ。いつも、冷淡で人を歯牙にもかけないような人たちに魅力を感じる。最近も三人の代理人候補に会ったんだけど、自分に言い聞かせたよ。今回は僕と少しは手をつないでくれる人を選ぼう、と。温かく支えてくれる人が必要だったからね。

三人と面接したら、『ゴルディロックスと3匹のくま』って童話で女の子が三つのお粥を味見したときみたいだった。一人目はあけすけに物を言いすぎるし冷淡。二人目は親切すぎて、正直なところ気詰まりだった。でも、三人目はちょうどいい感じだった。親切で、穏やかで、きちんと境界線を引いてくれる。三人目が求めていた相手だ、と確信して、その人を選んだ。ところが、どうやらまたいつものように、冷淡で人を歯牙にもかけない人物を選んでしまったようなんだ。契約を結ぶ最初の数週間こそしっかり対応してくれたけど、今はほとんど連絡がない。またやってしまったよ。さすがに自分にイライラしている」

――作家仲間のジョーダン(著作権エージェント――作品のスポークス・パーソンで、アイデアを磨く手伝いをし、執筆の報酬を出す出版社につないでくれる人物――を探していた)

握手するイメージ
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心理学を理解していても同じことを繰り返してしまう

ジョーダンは作家仲間であるだけでなく、同じ心理学者であり、私の元指導教官だ。

私は研修医の頃、患者の記録と質問リストを抱えて、目をキラキラさせながら大急ぎで指導セッションに向かったものだ。期待のまなざしで彼を見つめ、知恵を授けてくれるのを今か今かと待っていた。

私から見れば、ジョーダンは何でも知っていたから、私は二つのことを望んでいた――。

一つは、いつか彼に負けないくらい優秀なセラピストになること、そしてもう一つは、私が心にどれだけ多くの欠点を抱えているか、彼に知られずにすむことだ。

当時はまだ信じていたのだ。セラピストのメンタルヘルスは完璧でなくてはいけないし、セラピストには「分別がある」から、私のように人生の選択で堂々めぐりに陥ることなんて絶対にないはずだ、と。だから、一緒に仕事を終えたある晩、ジョーダンから「完璧な著作権エージェント」探しの顚末てんまつを聞かされて、私はショックを受けた。こんなに心理学を理解している人が、なぜ同じパターンを繰り返すのだろう? と。ジョーダンはこの話を、私にわざと聞かせてくれた。彼は知っていたのだ。私が彼をあがめていることも、「人間が自分の行動の理由を理解し、別の選択をする方法を学べば、二度と同じことを繰り返さない」と信じていることも。実は……なかなかそうはいかないものなのだ。

人はつい「慣れ親しんだもの」を選んでしまう

ジョーダンの話が重要なのは、私もそうだったように、多くの人が「人生のパターンをきちんと理解できたら、二度と同じパターンを繰り返さない」と信じているからだ。「でも、そうじゃない」と説明するのが誰よりもうまいのは、人間心理学の博士号を持つ人間ではないだろうか?

ジョーダンは、自分の歴史を知っていた。自分が求め、必要としている温かさをくれる人たちを避ける傾向があることも。意図していつもと違う行動を取ろうとしても、おなじみのパターンに戻ってしまうのだ。それは、自分が「サポートされる価値のない人間だ」と思っているからではない。そう思っていたら、一人目の候補者を選んでいただろう。

また、(他人の行動を自分の世界観に合わせて解釈する)「確証バイアス」が原因でもなかった。

「確証バイアス」にはすでに対処していたから。問題の原因はおおむね、人間は慣れ親しんだものに引き寄せられるから、だった。

温かく接してくれる二人目の候補者をはねのけたのは、そこまでの優しさにはなじみがなくて、少々不安を感じたからだ。三人目の候補者は、書面上はほしいものをくれたし、ジョーダンの直感も「この人がいい」と告げていた。申し分のない相手に見えたのだ。

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慣れ親しんだ状況がホッとする

あなたにも、こんな経験はないだろうか? たとえば、面接の部屋に足を踏み入れると、面接官がどこか姉に似た人物で、突然すべてがラクに感じられた。

あるいは、「いつもとまったく違う仕事/パートナー/コミュニティを見つける」と決めたのに、半年ほど経つと、どういうわけか新しい状況が前回とほぼ同じだと気がついた、などなど。サボタージュを克服する専門知識を身につけても、やはり同じ状況に陥ってしまったりする。慣れ親しんだ状況に身を置くと、人はたいていくつろげるのだ。すでに選ぶ道は決まっていて、その中で人や場所や物事を知っていく感じ。肩の力が抜けてホッとする。

いつもと違うやり方を選んでみる

ジョーダンは「慣れ親しんだもの」にまたしてもつかまったことに気がついた。そして、私と雑談したあと、自分を責める気持ちをさっと抑えた。彼には二つの選択肢があった。

ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)
ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)

一つ目は、今のエージェントと離れて、二人目の候補者に電話して、相手の優しさに対する不安に対処すること。もう一つは、今のエージェントとの契約を続け、相手との関係を改善する努力をし、何も変わらなければ離れる、というものだ。

ジョーダンは、二つ目の選択肢を選んだ。そして、エージェントとの関係に望むことをリストにした――毎週電話かメールを交わす、原稿にフィードバックをもらう(その際、修正が必要な点だけでなく、よく書けている箇所にも目を向けてもらう)、お互いの人柄をよく知るために、時々コーヒーミーティングをする。その後、リストをエージェントに渡すと、「お望みのサポートをわかりやすく教えてもらえてありがたい」と感謝された。

多くの人は信じている。「パターンを理解したら、二度と繰り返してはいけない。繰り返すとしたら、自分はしくじっている」と。そしてそれを、セルフ・サボタージュをやめられない証拠だと考える。でも、それは違う。

パターンを手放すのは難しく、おなじみのやり方に戻ってしまうのはごく当たり前のことなのだ。だから、慣れ親しんだ行動に逆戻りした自分に気づいたら、ジョーダンのように、いつもと違うやり方を選べばいい。それはサボタージュとは正反対の行動なので、より健全な新しいパターンが生まれるはずだ。

脱出のヒント

・パターンを完全に捨てられなくても、あなたがしくじっているからではない。あなたが人間だからだ。

・いつものパターンに逆戻りしたことに気づいても、「また抜け出せなくなった」と即座に思い込んではいけない。それに対処する、いくつもの選択肢があることを思い出そう。そこから離れるのか、状況を改善するためにできることがあるのかを判断すればいいのだ。たとえば、慣れ親しんだ状況の中でも、自分に必要なものやほしいものを相手に伝えることはできる。